社会政策学会史料集



『社会政策学会年報』第42集 学会記事(一九九七年度)

 今年も春、秋の二回大会を開催した。春は千葉大学において(藤井良治会員が主担当)、また秋は、百周年記念大会として同志社大学において(西村豁通、中川清、石田光男各会員が主担当)、それぞれ開催された。大会プログラムを以下に掲げる。


第九四回大会(会場 千葉大学文・法経学部、五月一七日・一八日)

【共通論題】「アジアの労働と生活」
座長 法政大学 松崎 義
I 世界システムの中の東アジアの工業化と労働 東京経済大学 平川 均
II インドネシアにおける労働市場の形成過程とその特質 金城学院大学 山本郁郎
III マレーシアの経済発展と労働力構造の変化――エスニシティ・ジェンダー・国籍  法政大学 吉村真子
IV アジアの発展途上国における社会保障構築への視点 岐阜経済大学 菅谷広宣
V ネパールの児童労働の発生要因と問題点 東北福祉大学 谷 勝英
VI 韓国労働者の求める「人間的待遇」の意味 小樽商科大学 金 鎔基
VII アジア地域における国際労働運動と「労働組合」「人権」「社会憲章」 埼玉大学 小笠原浩一

【テーマ別分科会】
《第1分科会》「日雇労働者とホームレス――その現実と社会政策的課題」
座長 大阪市立大学 玉井金五
I 東京における「路上生活者」――新宿周辺の実態を中心に 東京都立大学 岩田正美
II 名古屋笹島における野宿者の生活と政策課題の特色 神戸女子大学 庄谷怜子
III 大阪釜ヶ崎における日雇労働者と野宿者 大阪府立大学 中山 徹 大阪市立大学 福原宏幸
《第2分科会》「企業内の階層性――ドイツ・アメリカ・日本」
座長 國學院大学 木下 順
I 高度経済成長期における作業・労働・労働力の変容と現場監督 桃山学院大学 上田 修
II 戦間期アメリカにおける職場の階層性と労働者――GE Schenectady Works におけるフォアマンの問題を中心に 中央大学 関口定一
III ドイツ大企業における企業内階層性――世紀転換期のクルップ社における管理職員、マイスター、労働者 筑波大学 田中洋子
《第3分科会》「ポスト北京会議の政策展開」
座長 東京大学 大沢真理
I フィリッピンにおける女性政策 十文字学園女子大学 橋本ヒロ子
II オーストラリアの女性政策と女性運動――政府のコミットメントを引き出す女性政策機構とは 国學院大学 田中和子
コメンテーター 茨城大学 渋谷敦司
【自由論題】
第1会場 女性労働
I 鳥取県における男女の労働意識と実態分析 東京大学 藤原千沙
II イギリス一八七四年工場法とジェンダー――時間短縮運動を中心に 成蹊大学 竹内敬子
III イギリスのボランタリーセクター――アンペイド・ワークの視点から 大阪市立大学 服部良子
第2会場 福祉問題
I 戦後日本における婦人保護事業の展開 一橋大学 堀 千鶴子
II 介護保険と措置制度をめぐる論争に関する一考察 高知大学 田中きよむ
III 福祉が生産と雇用を誘発する効果について――一九九〇年産業関連表による分析 明治大学短期大学 塚原康博
第3会場 労使関係
I 電気通信産業の職場の労使関係 東京大学 平木真朗
II 戦後期H製作所H工場における技能者養成――「技能養成」研究再構成の手がかりとして 東京大学 熊沢 透
III 一九八○年代の日本的労使関係の特質 つくば国際大学 石井 徹
第4会場 労働市場
I 機械産業における雇用システムの新展開――生産システムの九〇年代的展開を視野に入れて 機械振興協会 白井邦彦
II 日雇労働者の雇用保障と生存権保障――日雇労働市場の形成と流転 高野山大学 上畑恵宣
III 経済構造変動下における地域労働市場の再編 大分大学 阿部 誠



第九五回大会(会場 同志社大学 今出川キャンパス 十一月一日・二日)

【共通論題】「社会政策学会一〇〇年――百年の歩みと半世紀にむかって」
座長 同志社大学 西村豁通 東京都立大学 岩田正美
I 生成期における社会政策思想 関西学院大学 池田 信
II 戦時期の社会政策論 フェリス女学院大学 山之内 靖
III 本質論争から労働経済学へ 一橋大学 高田一夫
IV 「転換」期の社会政策学 東京大学 武川正吾
V 21世紀の社会関係と社会政策学 法政大学 中西 洋
VI 労使関係と社会政策 東京大学 仁田道夫
VII 社会政策とジェンダー 龍谷大学 竹中恵美子
VIII 高齢化社会と社会政策――社会保障・社会福祉を中心に 日本社会事業大学 三浦文夫
総括討論
コメンテーター 甲南大学 熊沢 誠 愛媛大学 小林漢二 高崎経済大学 塩田咲子 下山房雄 下関市立大学 堀内隆治

【書評分科会】
 労使関係、ジェンダー、高齢社会、総合福祉、社会政策の歴史の五テーマで二五冊の書籍が取り上げられた。
 昨九六年に研究大会の名称を大会に変え、地方部会主催ではなく、春の大会と同様、幹事会が責任を持つようにした。その第一回目の大会は同時に、学会創立一〇〇周年を記念する大会となった。
 社会政策学会は、一八九六年四月二六日、桑田熊蔵、高野岩三郎ら東京大学出身の若者七名によって結成された。しかし、この時には会の名前もない単なる研究会にすぎなかった。社会政策学会の名前が付いたのは翌九七年四月二四日の例会であったようである。この百年記念の企画はそれに因んだ。
 この私的な研究会は、すぐに対外的な活動に乗り出した。当時問題になっていた工場法に関して「対工場法案学術演説会」を開催したのが九八年一〇月二六日であった。この年の『国家学会雑誌』八月号には学会の趣意書が発表され、放任主義にも社会主義にも反対する立場が謳われている。
 学会らしくなっていくのは、一九〇七年に大会が年一回開かれるようになってからである。第一回大会は一二月二二日から三日間(ただし三日目は工場見学)、東京帝国大学で開催され、七、八百名の参観者を集めたという。一九一一年には地方講演会を開始している。社会的発言を積極的に行っていたことが窺える。
 一九二四年第一八回大会(労働組合問題)を最後に休会に至ったのは、左右対立が激化したからだとされている。
 戦後、復活した社会政策学会の活動についてはここに述べるまでもないであろう。
 多くの方々のご尽力により、記念大会を開催できたことを感謝申し上げる。
 この他、特記すべき事項として、年報改革がある。上井喜彦委員長を中心として年報編集委員会が精力的に検討した結果、レフェリー制を備えた自由投稿欄が設けられた。また、従来の自由論題からの論文採用は廃止となった。年報編集委員会はさらに年報改革を推進中であり、第九六回大会で新方針を発表する予定である。



第三回社会政策学会賞受賞者・作品

【学術賞】
 熊沢 誠 会員
 Kumazawa Makoto, Translated by Andrew Gordon & Mikiso Hane
 Portraits of the Japanese Workplace; Labor Movements, Workers, and Managers Westview Press
【奨励賞】
 李 捷生 会員
 法政大学比較経済研究所・松崎義編『中国の電子・鉄鋼産業・技術革新と企業改革』(法政大学出版局刊)のうち、李捷生会員執筆分。
 庄谷怜子 会員
 『現代の貧困の諸相と公的扶助――要保護層と被保護層』(啓文社刊)
  (学会本部事務局記)

〔2007年5月12日掲載〕


《社会政策学会年報》第42集『アジアの労働と生活』(御茶の水書房、1998年6月刊)による。






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