社会政策学会史料集



『社会政策学会年報』第9集 学会記事

第一九回学会大会

 大会は五月一六・一七の両日、専修大学で開催された。約二〇〇名の全員が出席した。共通論題は「婦人労働」で、報告は小林氏のものを除き他は全部婦人全員によって行われた。こうした企てが実行出来たのは、婦人会員が事前に横の連絡を密にし、大会に備えて相互に研究討論を重ねて来た結果であった。共通論題の持ち方についてすぐれた先例がつくられたものということが出来る。今度の大会はまた傍聴者が多かったことでも異例であった。二日間の日程は次のようであった。
第一日 《自由論題》
(1) 日本の賃金思想 労研 下山房雄
(2) 技術革新と労働力構造 東京大 小林謙一 同 山本 潔
《共通論題》
(1) 婦人の労働市場 労働省 広田寿子
(2) 婦人労働における出稼的性格 明治大 田辺照子
(3) 婦人の賃金 北海道労研 山本順子
《総会》
第二日
《共通論題》
(4) 中小企業における婦人労働の若干の問題 大阪市大 中村俊子 大阪商工研 金持伸子
(5) 婦人労働者の保護 労働省 赤松良子
(6) 婦人労働と家族制度 日本大 小林 巧
(7) 合理化攻勢と女子労働運動 群馬大 島津千利世
《総括討論》 座長 労研 藤本 武
 なお総会では、前大会からの懸案であった学会運営のための内規をつくることについて、討議の結果、次のような特別議題の議事細則を決定した。
一 特別議題については、原則として総会の満場一致が得られた場合、これを学会決議とすることができる。但し特別議題の原案について、総会の満場一致が得られない場合には、内容を修正し、あるいは発表方法を考慮することによって、学会決議の成立をはかるようにする。
二 普通議題と特別議題との区別の判定は幹事会がこれを行う。
三 会員が特別議題の提出を要求する場合には、会員二十名以上の署名および提案理由をそえて、予定された大会の二週間以前に幹事会にその旨通告しなければならない。



第二〇回学会大会

 大会は一一月六日、七日の両日、京都大学で開催され、約一七〇名の会員が出席した。大会の共通論題は「賃金構造」であった。わが国今日の労働問題のなかで、賃金格差の問題がとくに注目されていることは周知のところであるが、大会の報告討論も自らこの格差論に集中された。しかし時間の制約もあり、格差論と並ぶ今日的課題である同一労働同一賃金については、論議がつくされない憾みが残った。
 大会の新しい行事として、この度は二つの特別報告を組み入れることができた。その一つは、学術会議の招待で来日中の、ソ連邦科学アカデミー東洋研究所員ぺ・ペ・トペーハ氏から、ソ連邦における日本の労働運動の研究状況について、短い時間ではあったが興味あるスピーチを受けることができたことである。これは同氏の時間の都合もあり、大会第一日、自由論題の研究報告を始める前に行われた。今一つは、学術会議の委嘱で本学会の会員数名が参加して実施された科学者の生活実態調査の結果報告が、服部英太郎(東北大)、氏原正治郎(東大)、藤本武(労研)の三氏によってなされたことである。これは第一日の自由論題の報告が終った後に行われ、参会者の大きな関心をよんだ。
第一日
《自由論題》
(1) 日本における歴史学派経済学の発展――いわゆる第一期から第二期への媒介過程について―― 東北大 小林漢二
(2) 石炭産業における独占価格と賃金――賃金・雇傭の産業別構造分析のサムプルとして―― 九州大 吉村朔夫
(3) 昭和恐慌下の労働運動 東京都立大 塩田庄兵衛
《特別報告》
(1) 日本の労働運動の研究について ソ連邦科学アカデミー東洋研究所員 ぺ・ぺ・トペーハ
(2) 科学者の生活実態調査報告 東北大 服部英太郎 東京大 氏原正治郎 労研 藤本 武
《総会》
第二日
《共通論題》
(1) 戦後の日本工業における賃金格差をめぐる若干の問題 慶応大 井村喜代子 同 北原 勇
(2) 綿紡績業における賃金構造と産業別労働組合の賃金政策 東京大 小池和男
(3) 職務評価方式にもとづく企業別賃金格差の決定について 早稲田大 西宮輝明
《総括討論》 座長 東京大 氏原正治郎
《懇親会》



第二一回学会大会

 大会は四月二六・二七の両日、東京経済大学で開催された。二〇〇名を越える会員が出席し盛会であった。別掲のように研究報告も従来になく多きを数え、それに安保問題についての懇談会、反対署名などの緊急行事も加わって、大会二日間はなかなかの強行日程であった。大会の共通論題は「労働市場」で、研究報告はアメリカや西ドイツの場合をも含め、理論と実際の両面から追求される形となった。隅谷教授も総括の際に言われたように、この両面からのアプローチは、報告討論のなかで必ずしも統一されるところまで進まなかったが、市場論をめぐって、今後検討さるべき数々の問題点がクローズ・アップされ、この分野の研究方向に多くの指針があたえられた。
第一日
《自由論題》
(1) 社会保障概念の概造 東北学院大 森 健一
(2) 養老施設高年者の生活実態に関する一考察――大分県における事件を基礎として―― 大分婦人少年室 大阪已年子
(3) 救済組合と現業委員会――国鉄労働政策史の一齣 東北大 藤原壮介
(4) 港湾労働者の実態 国会図書館 河越重任
(5) 近代経済学の賃金論――限界生産力説批判―― 北海道大 平石 修
《総会》
《懇親会》
第二日
《共通論題》
(1) 一九五〇年より五五年迄の西ドイツ労働市場 小樽商大 吉武清彦
(2) 現段階におけるアメリカ労働市場の構造 東京大 中西 洋
(3) 労働市場の変化にかんする一考察 関西大 西岡孝男
(4)  新規労働力市場の展望 経済企画庁 中村厚史
(5) 北海道の労働市場構造 北海道労研 徳田欣次
(6) 労働市場論に関する二・三の論点 大阪市大 竹中恵美子 同 中村俊子
(7) わが国労働市場の特質と職業訓練制度 法政大学・大原社研 田沼 肇
《総括討論》 座長 東京大 隅谷三喜男
 なお大会前日、日比谷市政会館において生活問題・社会保障合同分科会が開かれ、「社会保障の長期展望」というテーマで研究討議が行われた。
 〈附記〉第二一回大会総会で幹事の改選が行われた。新幹事は次の諸氏である(順序不同)
 大河内一男 大友福夫 藤本 武 平田富太郎
 舟橋尚道 矢島悦太郎 隅谷三喜男 藤林敬三
 小島 憲 山中篤太郎 中鉢正美 塩田庄兵衛
 近藤文二 古林喜楽 井上巌次郎 西村豁通
 岸本英太郎 奥村忠雄 服部英太郎 新川士郎
 籠山 京 正田誠一 木村正身 河野吉男
 なお学会の会員数は、昭和三五年四月末現在で四九七名である。

あとがき
 原稿を早々といただきながら公刊が遅れ、大変申訳けないと存じています。実は第八集「中小企業の労働問題」が出版社の都合でのびのびになり、心ならずもそのしわよせを受ける結果になってしまいました。しかし出来ればいままでの年報のなかでも屈指のものと自問している次第ですが、これもひとえに諸先生が力作をおよせ下さったたまものと思います。
 過月戦前の社会政策学会のことを大内先生からおききしたとき、森戸辰男氏の婦人問題の報告は戦前の数多い報告の中で白眉のものだったというお話がありました。しかし卒直に言わせていただくと第一八回大会における諸先生の報告は、森戸氏のそれよりも内容的にははるかにすぐれたものでした。学問の進歩は恐るべきものがあります。もし大内先生が報告をきかれていたならばおそらく今昔の感にたえなかったことでしょう。
 第一八回大会の共通論題の報告者は、八名中七名までが女性によって占められ、きわめて壮観でした。我が国に学会多しといえどもこれほど多くの女性が一斉にきをはいた例は他にありますまい。このような女性の学会への進出それ自身が戦後の婦人問題の一つの研究対象であるといってもよいでしょう。まさに本年報は学界における女性の地位を示す記念碑であります。
 ところで戦後は婦人問題の研究が飛躍的に進展したとはいうものの、まとまった文献はあまり多くありませんでした。またいままでの数少い文献でさえ社会科学的な水準という点からみると物足りないものばかりでした。したがって本年報は戦後はじめての婦人問題についての社会科学的労作といえましよう。もちろんここでとりあげたテーマは婦人問題のすべてをつくしているわけではないし、またそれぞれの論文に全く欠陥がないわけでもありません。しかし少くとも将来婦人問題の研究を深め、体系化する土台がここにきずかれたことを編集委員一同喜んでいる次第です。

〔2006年1月2日掲載〕


《社会政策学会年報》第9集『婦人労働』(有斐閣、1961年5月刊)による。






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