座長:佐口 和郎(東京大学)
80年代以降先進国ではパート労働や派遣労働といった様々な非正規雇用が雇用労働の中で比重を高めてきた。それは経営者による雇用の柔軟性追求の結果であるとともに、行政の雇用政策や労働供給側の雇用形態選好の結果でもあった。したがって非正規雇用の増大は、企業の労務政策、労働政策、家計の労働供給行動を大きく変えることとなり、正規労働者を前提に打ち立てられていた企業構造、社会政策、家計の生涯生活設計といったこれまでの社会の枠組みを大きく変えつつある。企業は非正規雇用の比率を増大させる一方では、正規雇用にある社員の仕事の形態を変えている。フレックス・タイムから始まり、成果主義、裁量労働制といった最近のホワイトカラー労働の変化は、時間管理が後退して、雇用労働の中での請負的要素が拡大していることを示している。そして定型的労働はパート労働に委ね、非定型的な判断業務、企画業務は正社員の裁量労働で行うという企業の動きは、非正規雇用と裁量労働制の導入などが、相互に関連を持った動きであることを良く示している。本学会は、102回大会において「経済格差と社会変動」を共通論題として、現在日本社会で起きている変化に注目してきたが、今回取り上げる雇用関係の変貌は経済格差問題の背後にある仕事のあり方の変化に注目し、その変化がはらんでいる問題を取りだし、それへの対応を考えることを目的にしている。
森 建資(東京大学)
「雇用関係の変化をどのようにとらえるか」
雇用関係の変化については、様々な調査がなされて、変化の実態が明らかになってきた。しかし、雇用関係の原理の変化として理論的に考察する試みは少ない。本報告では、そもそも雇用関係はどのような原理によって成り立っているのかを明らかにし、そうした原理のレベルでどのような変化が起きているのか考えてみたい。従来の雇用関係に関する見解の批判、雇用関係について3類型の設定、それから雇用関係のあり方の変貌へと議論を進め、そうした変貌への対応を提起したい。
脇坂 明(学習院大学)
「パートタイマーの基幹労働化について」
非正社員の大半を占めるパートの戦力化(基幹パートの普及)が進んでいるが、まず東京都外食産業調査により戦力化の段階と、育成(能力開発)のネックを具体的に明らかにする。そこから「短時間正社員」への展望をはかるとき、他の調査も用いて、パートの正社員への登用制度や登用希望などのデータや実態を探る。供給側・需要側の状況証拠などをふまえ、短時間正社員制度への課題などを考察する。
中野 麻美(弁護士)
「労働者派遣の拡大と労働法」
1986年労働者派遣法制定によって合法化された労働者派遣は、規制緩和とともに急速な広がりをみせてきた。最近ではコスト削減や雇用調整目的からのニーズが高まり、法の趣旨とは大きく乖離した常用代替が促進されている。こうした常用代替促進の要因には、この種の労働形態が有する「使い勝手の良さ」があるが、近時は、景気変動に雇用及び労働条件が敏感に反応する労働者派遣の特質がますます顕著に現れるようになっており、派遣労働者のみならず常用雇用労働者の働き方や賃金にも影響を及ぼすようになった。そうした実態から、労働法による規制の課題を明らかにする。
佐藤 厚(日本労働研究機構)
「働き方の変化と労働時間管理弾力化」
環境変化を背景に、企業では弾力的な労働時間管理と、業績連動型の人事管理が導入されつつある。とりわけ裁量労働制は厳格な時間管理をせずに、「業務遂行の方法や手段を労働者に委ねる」ことから、雇用労働の一部否定の動き(=請負労働としての性格)として解釈することが可能である。この報告では、かかる雇用労働でありながら業務請負的な要素を高めた働き方が増加する背景を探り、その含意と政策課題を検討することとしたい。
座長:石田 光男(同志社大学) コーディネーター:橋元 秀一(國學院大學)
〈分科会設定の趣旨〉
日本の経済構造が大きく変化しつつある現在、労使関係はどのような変貌を遂げつつあるのか。日本的雇用慣行が大きく再編成されようとしている下で、労使関係には何が問われているのか。本分科会では、戦後労使関係の展開を意識しつつ、こうした問題を問う中で、現代労使関係研究の視点や課題を探る。失業問題の深刻化や成果主義賃金の広まりなどの背後で何が問われ、さらには労働運動に迫られていることは何であるのか、議論を深めたい。
鈴木 玲(法政大学)
「労使関係研究の今後の課題」
本報告は、最初に過去10年の労使関係研究をレビューし、多くの研究が、80年代までの経済状況を前提として「経済パフォーマンスに貢献する労使関係」という視角から分析・評価を行っていたことを指摘する。次に、労使関係研究の今後の課題を提示する。第一に、バブル崩壊後の平成不況とそれにともなう労働市場流動化および労働者利害多様化傾向のもとでの、労使関係の現状と変化を明らかにすることである。第二に、これらの現状や変化を説明でき、かつ国際比較も可能な中範囲理論を構築することである。
青山 秀雄(作新学院大学)
「賃金の個別化と労使関係」
近年、賃金制度の成果・業績主義化がはかられ、賃金・労働条件の「個別化」が進行してきている。この「個別化」は、労使関係という視点からみると、賃金・労働条件決定の個別的労使関係化の進行と言えるだろう。ここでは、成果・業績主義の具体的諸施策の内容とそれに対する労働組合の対応を検討し、これからの労使関係の変容について考えていきたい。
福井 祐介(九州大学大学院生)
「コミュニティ・ユニオンの取り組みから」
地域を基盤とした個人加入型の労働組合であるコミュニティ・ユニオンは、多発する個別紛争の解決や予防の機能を果たしている。また職場支部(分会)という形で地域に散在する小組織を集約するという機能も持っている。コミュニティ・ユニオンは日本の主流である企業別組合とは異なった社会的役割を担っており、見かけの組織規模よりは影響力も大きい。しかし、組織を維持発展するためのリソースに不自由するなど個人加入ゆえの弱点もありそれらをどう補っていくかが課題となっている。
座長:平岡 公一(お茶の水女子大学)
〈分科会設定の趣旨〉
この分科会では、昨年に引き続き、福祉国家と福祉社会が直面する課題についてとりあげる。前回は、社会政策を取り囲むメガトレンド(グローバル化と市場化)を主題としたが、今回は、本学会において従来あまり取り上げられてこなかった定量的なデータ分析を社会政策の諸問題に応用する。ミクロとマクロのデータ分析を行いながら、新しいアプローチの可能性を模索する。この分科会をきっかけにして、こうしたアプローチによる研究が本学会においても進むことになれば、分科会は目的を達成したことになる。
三重野 卓(山梨大学)
「福祉意識と平等感」
現在、人びとの格差が拡大しているのではないか、階層化がすすんでいるのではないか、ということが注目を集めている。本発表では、格差のリアリティの把握というより、人びとの意識に焦点を合わせ分析することにしたい。具体的には、(1)現在の平等感、将来の格差拡大への見通しを中心として、(2)それに関係する生活満足感、公平感などの一般的意識、さらに、(3)政府の福祉政策に対する国民の価値意識、信頼感などをとりあげ、多変量解析を駆使して、不平等をめぐるメカニズムを解明する。
鎮目 真人(北星学園大学)
「公的年金制度と脱貧困化」
本報告では、OECD加盟18カ国の公的年金制度の機能について国際比較を行う。公的年金制度の機能の把握に際しては、制度の普遍性、給付水準、給付単位、給付スライドなどをもとに、Esping-Andersenの「脱商品化(De-commodification)」概念を拡張した「脱貧困化(De-destitution)」概念を定義し、その比較を行う。また、年金制度の「脱貧困化」機能を規定する要因に関する計量的分析も行う。
武川 正吾(東京大学)
「健康の不平等」
イギリス政府の『ブラック報告』以来、健康の不平等に関する社会的関心が高まり、国際的には、健康と社会経済的要因との関連に関する研究の蓄積が相当進んでいる。しかし、日本国内では、これまで、この種の分析に必要な基本データすら収集されてこなかったのが現状である。この報告では、2000年に実施した全国調査のデータを用いて、健康の不平等が日本でも存在するか否かについての分析を行う。健康の測定は、SRH(自己評価式健康)を用いる。
座長:高田 一夫(一橋大学)
〈分科会設定の趣旨〉
介護保険が実施されて、約2年たち、少しずつ経験が蓄積されてきている。今回は、個別地域での介護労働と経営の内容について、ケース・スタディを紹介する。地域によって少しずつ実態が異なり、その差異が介護保険システムのあり方を浮かび上がらせている。以下のものが、必ずしも代表例であるとは言えないが、議論の出発点として意見交換を行いたい。介護サービスは、サービス業であること、また準規制産業でもあることから、これまでの労働・人事問題研究の蓄積の中で、分析できる所が多い。しかし、社会政策の一部でもあるため、純粋な産業分析からはみ出る部分をもっている。それが、どのように現れるかに、注目したい。
照内 八重子(立正大学大学院生)
「高齢者介護施設における福祉経営と労働−関東地域の施設経営と福祉行政の事例を中心に」
介護保険制度の施行以前より、関東地域内の高齢者の介護老人施設を訪ね、介護労働や経営の変化、地域の特徴、行政との関わりについて聞き取り調査を実施している。そこでは、高齢化の地域特性や行政の取組が、社会福祉法人の実施する業務や経営面での方針や行動に影響を与えている。本報告の目的は、介護保険導入による福祉労働の変化を調べることにあるが、労働者を需要する介護施設の経営や環境等が福祉労働に質量ともに影響を及ぼすことから、介護施設での現状を確認し経営と介護労働の課題を検討したい。
森 詩恵(松山東雲女子大学)
「ソーシャルワークの視点からみた介護保険制度の諸問題
―日常生活の維持・自立支援を視野に入れた介護サービス提供に向けて」
本報告では、介護保険制度において、従来の社会福祉において目指されてきた介護サービスの提供(「日常生活の維持・自立支援」を視野に入れたサービス提供)が拡充されているのかという点を医療サービスと比較しながら明らかにする。そして、日常生活の維持・自立支援を視野に入れた介護サービス提供には、ソーシャルワーク実践が重要な役割を果たすことを検証する。
市民運動―労働者運動―国家 ── 歴史的に見た国際比較
座長:田中 洋子(筑波大学)
〈分科会設定の趣旨〉
現在、市民のNGOが政府機関化して大きく展開しているスウェーデン、そして労働組合幹部が政権運営・労働政策に直接たずさわっているドイツ。この二つの国では、人々が歴史的に、地道に形成してきた市民や労働者の「運動体」が、社会を引っ張る中心的推進力となるにいたっている。こうした状況は、一体いかなる歴史的過程をへる中で生み出されたものだったのだろうか。市民の運動と労働者の運動との相互関係、それぞれの運動の国家との関係は、反目と信頼、目標の齟齬と一致の間でどのような展開をとげたのか。これらの歴史的分析は、大きな構造改革期にある日本社会にとっても、さまざまな示唆を与えてくれるにちがいない。
石原 俊時(東京大学)
「1900年前後のストックホルムにおける市民的公共性の展開」
近年、スウェーデン福祉国家の起源を19世紀末葉から20世紀初頭に求める研究が多く出されている。本報告では、Madleine Hurd等の研究を出発点としつつ、同時期のハンブルクに比較してのストックホルムの政治的・社会的特質を、市民層(中間層)と労働者階級の相互関係の展開や両者の市民的公共性をめぐるかけひきに注目して検討してみたい。また、それを福祉国家形成におけるこの時期の歴史的位置付けについて考察する手がかりとしたい。
今井 晋哉(徳島大学)
「19世紀中葉のハンブルクにおける市民層の運動、労働者運動、国家
―公論形成への参加をめぐって」
ドイツにおける1848/49年革命期は、近代社会の形勢を巡るもろもろの矛盾が噴出するとともに、「下から」の運動が様々に展開された時期であった。本報告が対象とするハンブルクでも、この時期市政の改革をめぐって様々な市民層の結社の活動が活発化し、同時に労働者の組織も、こうした動向にも絡みつつ、独自の運動を展開しようとしていた。本報告では、1848/49年革命期のハンブルクにおける市民層の運動、労働者運動それぞれの動向を概観しつつ、特にその相互関係や国家との関係について、「営業の自由」や公論形成への参加というような論点を中心に検討してみたい。
座長:永山 利和(日本大学) コーディネーター:竹内 敬子(成蹊大学)
〈分科会設定の趣旨〉
共通論題でも議論の焦点となるであろう非正規雇用の問題は、非定型部会が専門とする分野であり、またジェンダーとも深く関わる問題であるということで、両専門部会の合同で分科会をもつことになった。本分科会では、改正労働者派遣法の施行で急速な規制緩和が進展した派遣労働に焦点を絞り、実態調査の紹介、実践的な立場からの問題点と課題、研究の現時点を踏まえた総括という構成でこの問題を取り扱う。
チャールズ・ウェザーズ(大阪市立大学)
「日本のホワイトカラー職場の変容ー女性派遣労働者に対する影響」
女性派遣労働者の実態を検討する。派遣労働者産業を事例研究として見て、日本の雇用制度変化・ホワイトカラー職場の変容の女性労働者に対する影響を検討する。この分析は特に派遣会社のコーディネーターとマネジャーの聞き取り調査に基づいており、労働市場・経営戦略・労働条件の関わりについて分析する。ジェンダー・年齢・地位差別が多くて、多くの派遣労働者は雇用・所得不安を受けているのではないかという議論を出す。
藤井 とよみ(女性東京ユニオン)
「現行派遣法の問題点と派遣労働者の権利−均等待遇の可能性を探る」
派遣労働者は派遣先の職場でさまざまなトラブルに遭遇している。しかし、それが明かな派遣法違反行為である場合でさえ、派遣労働者が自らの権利を主張しづらい状況がある。それは何故か、それにはどのような背景があるのか。現行派遣法の下で派遣労働者はどのような権利を保証されているのか、どのように権利侵害に立ち向かったらよいのか、正規労働者との均等待遇は可能なのか、などの問題を、実際の派遣労働者の経験を紹介しつつ論じる。
伍賀 一道(金沢大学)
「雇用・失業政策の展開と派遣労働」
小泉政権の「構造改革」政策では、派遣労働は「失業対策」としての役割も期待されるようになった。派遣労働は日本の雇用・失業政策のなかでどのように位置づけられてきたのか、研究史を振り返りながら総括してみたい。さしあたり、以下の点に言及する予定である。
1) 労働者派遣法以前の「派遣労働」
2) 雇用の弾力化、規制緩和政策と派遣労働
3) 今日の「構造改革」と派遣労働
座長・コーディネーター:遠藤 公嗣(明治大学)
〈分科会設定の要旨〉
日本の労働研究は、1990年代に大きく転換した。80年代からバブル経済期にかけて影響力を持ったのは、小池和男氏の知的熟練論であった。知的熟練論は、日本製造業の高い生産性を説明する理論として、いわば「現に存在するもの」の合理性を説明する理論として、流布した。しかし、バブル経済の崩壊後、知的熟練論にかわって、市場原理主義的な労働経済学が急速に影響力を得た。それは日本経済の構造改革を推進する理論であり、「現に存在するもの」の非合理性を主張する理論であった。この転換にあたって、社会政策学会の労働研究者は、自分自身がたずさわる研究の位置を再確認する必要があろう。本分科会は、その素材を提供したい。
野村 正實(東北大学)
「知的熟練論批判」
小池和男氏の知的熟練論は、非現実的な理論である。非現実的な理論に実証的な装いを与えるために、氏は、資料の創作や改変をおこなった。しかしなぜ、実証的根拠の欠如している知的熟練論がもっともらしい理論と受け取られてきたのであろうか。この疑問を解くカギは、内部労働市場論の普及にある。知的熟練論と内部労働市場論との異同、戦後労働研究史における知的熟練論の位置を検討する。
遠藤 公嗣(明治大学)
「社会政策学会における労働研究」
報告者である遠藤の世代あたりまでは、労働研究者で社会政策学会に所属する者はかなり多く、その理論枠組としては労使関係論が大きな影響力を持っていた。しかし現在、遠藤より下の世代では、労働研究者で社会政策学会に所属する者は少ない。なぜ、そうなったのか。それは不可避で甘受すべきなのか。それとも、あたらしい研究世界を切り開くべきであり、また切り開ける可能性があるのか。これらを考察する。
座長・コーディネーター:埋橋 孝文(日本女子大学)
〈分科会設定の趣旨〉
一昨年の韓国、昨年の台湾につづいて、今年は中国の社会保障改革をとりあげ、2つの報告を準備しました。現在、中国の社会保障全体が失業保険制度を含めて大きな再編過程にありますが、今回は年金制度に絞って都市、農村それぞれの年金制度が直面している問題と今後の方向を検討します。最近は中国の社会保障への関心も高まり、重要な文献が出版されています。本分科会ではそれらを踏まえた上で、ディスカッションにも十分な時間をとり、壮大なスケールで進行中の社会保障改革の行方を考えていきます。
侯 躍戈(大阪産業大学大学院生)
「中国の年金制度の現状−城鎮企業従業員の制度を中心に」
中国では1970年代末からの経済体制の改革にしたがって社会事情が変容し、これまでの年金制度に潜在していた様々な弊害が一気に露呈する格好になった。こういう問題を解決するために、「中国の特色をもつ社会保障制度の構築」をめざして、中国の年金制度の改革が始まった。今回の報告では、@なぜ中国の年金制度を改革しなければならないのか、A今の中国の年金制度はどのような特色をもっているか、さらに、Bどのような制度が実際の中国の国情に合った制度になれるか、について発表する。
王 文亮(九州看護福祉大学)
「中国農村における家族養老の限界と老齢年金保険の構築」
すでに高齢化社会に突入した中国では高齢者の大半が広大な農村地域で暮らしている。ごく少数の身寄りのない高齢者は「五保戸」(五つの保障を受ける世帯)と認定され日常生活が保障されているほかには、社会保障制度はほとんど存在せず、絶対多数の者は家族扶養に頼らざるをえないのが現状である。本報告では、近年急激な社会変化にともなって生じてきた家族養老の限界を検証しつつ、農村住民の老後生活にもっとも重要な公的年金保険制度の構築状況を検証し、今後の課題およびその対応策について考察してみたい。
座長:河合 克義(明治学院大学)
〈分科会設定の要旨〉
介護保険制度が実施されてすでに3年目に入っている。制度をめぐる議論の中で次第に明らかになってきたことは、介護保険制度が介護問題のすべてに対応できるものではないという当然の事実である。それゆえ、いま、介護保険制度以外の諸制度のあり方が改めて問われている。ところが介護保険制度で生み出された利用選択化、契約化といった政策動向は、社会福祉および社会保障の枠組みを大きく変えるものとなってきている。本分科会では、以上の動向を前提に、介護問題の全体的課題を視野に入れた政策の本来の方向性について検討したい。
里見 賢治(大阪府立大学)
「介護保険中間総括と21世紀の社会保障−劣化する社会保険方式をこえて」
1990年代の公的介護保障のあり方をめぐる制度・政策論争を通じて問われたのは、公費負担方式と社会保険方式のいずれが、サービスの量質の整備を前提に、普遍性・権利性・公平性のある制度は実現しうるかにあった。論争の論点を振り返りつつ、介護保険はそれを実現できたのかを検証するとともに、医療保険制度にみられるように劣化現象を呈しつつある社会保険方式を再吟味し、社会保障の理念の再構築のための視点を提起する。
伊藤 周平(九州大学)
「介護保険と社会保障の構造改革−保険原理の強化とその政策的限界」
介護保険制度の導入は社会保障の構造改革の先駆けといわれ、現実に介護保険の内容をモデルに医療制度の改革や障害者福祉分野の改革(支援費制度の導入)が進められている。本報告では、特に介護保険法にみられる応益負担の導入、保険料減免の制約、保険料滞納者への給付制限の問題を取り上げ、保険原理の強化と保険給付の範囲の限定化が社会保障構造改革の基軸にすえられていることを指摘し、その政策的な限界について考察する。
座長:高橋 彦博(法政大学)
〈分科会設定の趣旨〉
社会労働運動沈滞の今日の状況にあって、この何年かの間に、レッド・パージ反対闘争50年を記念する、あるいは労働組合期成会誕生100年を記念する、または社会民主党結党100年を記念する、さらには日本共産党結党80周年を迎える、社会労働運動史の記録と記憶を確認する多様な作業が取り組まれている。この機会に、日本の社会労働運動史において進行中の自己確認作業の到達点を確認することにしたい。
高橋 彦博(法政大学)
「座長挨拶」
社会政策学会100周年記念大会において、私が聞く限りにおいて、労働組合期成会100周年とか社会民主党100周年とかとの関係が論じられることはなかった。新世紀初頭の社会政策学会においてこそ、時代閉塞の状況を突破する方向模索として旧世紀の社会労働運動総体の批判的総括が試みられるべきであろう。
芹沢 寿良(法政大学)
「1950年反レッド・パージ闘争から50年」
日本の社会労働運動は、第二次世界大戦後の初めての大きな反動攻勢に直面し、複雑な状況下で停滞と後退を余儀なくされた。そのなかでの学生運動によるレッド・パージ反対闘争は、大学の自治と学園の自由を守り、その後の社会労働運動に一定のインパクトを与えた。近年、幾つかの大学関係者によって、その時代の記憶と歴史が記録された。それらに触れつつ、反動攻勢に大衆運動で立ち向かった学生運動の積極的意義を強調したい。
犬丸 義一(アジア・アフリカ研究所)
「日本共産党結党から80年」
戦前、戦後の最低落時をとって問題点を検討する。従来私は創立史の実証的研究に集中してきたが、今回は問題点の検討を重点とする。(1)戦前では、1928年2月の総選挙で、共産党独自候補をたてて、独自のビラ、檄を出したりしたが、これはコミンテルンから指示されたものであったが、妥当なものであったかどうか。三・一五の大弾圧による壊滅的打撃の原因ではなかったか。(2)戦後では、五十年問題の時期である。東大学生細胞を事例として検討する。コミンフォルムと日本共産党との関係が焦点となる。
加藤 哲郎(一橋大学)
「日本の社会主義運動の現在」
本報告は、もともと2002年1月、中国・北京大学で開かれた国際シンポジウム「冷戦後の世界社会主義運動」への報告書のペーパーを元にしている。フランス革命後の「社会主義」概念の登場から今日までの広義の社会主義の中に、1920年代以降日本共産党の運動に還元されがちだった日本の社会主義運動を位置づけて、その「賞味期限切れ」を論じるものである。同時に旧ソ連秘密文書の解読から見えてくる、日本の社会民主主義と共産主義の特異な歴史的関係(ヨーロッパ共産主義は、もともと社会民主主義から生まれ、ソ連崩壊と共に回帰した)、社会運動におけるA.グラムシのいう機動戦・陣地戦から21世紀型情報戦への展開も論じてみたい。
座長:中川 清(慶應大学)
平野 隆之(日本福祉大学)
「介護保険事業の時系列実績についての地域間比較分析」
筆者が開発した「介護保険給付分析ソフト」の結果に基づく,全国約1000保険者の1年間の給付実績を時系列・地域間で比較分析した結果を報告する.比較指標としては,在宅・施設比率指標,要介護度利用比率指標,ケアプラン指標などを用い,時系列変化と地域間格差の要因を分析する.なお,政策評価の視点からは,中山間地や痴呆高齢者への制度の有効性の評価も若干行う.
関谷 みのぶ(日本女子大学大学院生)
「居宅介護労働の編成―介護保険下における2つの傾向」
介護保険下では、介護サービスの提供が営利・非営利の事業体によっておこなわれることが想定されている。特に、居宅介護事業の場合労働集約性が高いため、営利性は基本的に、介護労働の編成・管理の仕方にかかわっている。この点で、事業所ごとの実態調査をおこなうと、フレキシブル型とテーラー主義的な完全マニュアル型と対立的な2つの傾向がみられる。この2つの傾向が並存する条件を検証し、介護サービスの本来のあり方をふまえて、介護保険という制度的側面から介護労働の問題点を検証する。
中村 義哉(東京大学大学院生)
「施設におけるケア労働と分業」
施設(介護老人福祉施設)におけるケア労働を、制度と分業の視点から分析する。とくに、施設ケアの主要な担い手である介護職員、生活相談員、看護職員をその対象とする。施設とそこでのケア内容を規定する制度によっては、異なる施設体系・職種は、その本来の役割に応じて、施設間・施設内分業を形成することになっているが、実際には、それからかなり離れたものになってしまっている。現在の分業体制がどうなっており、施設ケアにまつわるどのような特徴と制約が、現在の施設ケア労働を規定しているのかを明らかにする。
座長:上掛 利博(京都府立大学)
水本 有香(神戸大学大学院生)
「中国の社会保障法制度―年金制度を中心として」
現在、中国は日本と同様に高齢化が進んでいる。また、社会主義市場経済の導入、急速な経済発展、WTOへの加盟に伴い、国有企業改革が実行されている。その改革の重要な柱の一つが、社会保障制度の拡充である。社会保障制度の中でも高齢者・失業者など弱者の生活を支える必要性の高い年金制度は、重要である。しかし、制度の拡充を進めるにあたり、旧来の法規のみでは不十分であり、現在の状況と整合していない法規もある。そのため、国務院労働・社会保障部(日本の厚生労働省にあたる)が制定した数多くの法規・政策が現在の中国の社会保障法制度を支えている。この現状の法的問題(効力、整合性、地方性など)の解決について述べる。
武居 秀樹(法政大学)
「日本における自治体版『福祉国家』=革新自治体の歴史的位置―美濃部東京都政12年を事例に」
高度経済成長の後半期に大都市を中心に急速に広まり、最盛期には人口の4割に及ぶ自治体に広がった革新自治体であったが、第二次オイルショックを前後して歴史の舞台から退場した。特定の歴史的局面に登場し、また特定の歴史的局面にいっせいに姿を消していったこの革新自治体とはいかなる歴史的存在であり、どのようなインパクトを日本社会に与え、また、いかなる制約・限界を有していたのか、その点を美濃部都政を事例に解明するのが報告の主題である。報告では、革新自治体を日本における自治体版『福祉国家』と位置付け、その典型として美濃部都政を対象にし、美濃部知事・周辺と4つの主体の取り結んだ関係、すなわち政党、労組、官僚組織、都民との協調と対抗関係を追いながら美濃部都政の形成・成立・崩壊過程を分析しつつ、主題を実証的に明らかにしたい。
自由論題第3会場 労働問題・労使関係・人事管理(1)
座長:久本 憲夫(京都大学)
岡田 真理子(東京大学大学院生)
「国家公務員の人事制度−勤務評定制度と職階制分析から見える人事制度の特徴」
本報告は、戦後初期(1945-1955)の日本の国家公務員に関して、勤務評定制度と職階制の導入・制定・実施過程から形骸化に至る要因を分析することにより、国家公務員の人事制度を規定する特徴を明らかにする。勤務評定制度及び職階制の形骸化過程においては、現在の公務員制度改革の議論にも通ずる重要な問題点が議論されており、その過程の分析から、戦後日本の人事制度を分析する際の視座となり得るような論点を提示できると考えられる。
禿 あや美(東京大学大学院生)
「小売業におけるパートタイマーの職域の形成」
小売業ではパートタイマーの「戦力化」が80年代以降進行し、仕事や責任の範囲が広げられていることが一般によく知られている。本報告では小売業のある一企業を事例に取り上げ、60年代後半から現在に至るまでの、パートタイマーの職域拡大の歴史的実態を、正社員のキャリア形成のあり方や教育訓練制度等との関連に特に注意をはらいつつ分析することを通じて、パートタイマーの戦力化を労使双方が志向した結果もたらされた正負両面を明らかにし、パートタイム雇用制度にとっての職域の意味を考察する。
松本 一郎
「横浜における日雇労働者の就労状況と変貌する寿地区」
山谷、釜ケ崎と並び「日雇労働者の町」として位置づけられてきた横浜市中区寿地区であるが、1990年代に土木・建設業の日雇労働求人は大きく低迷し、好転の兆しは見られない。就業機会を恒常的に得ることのできなくなった日雇労働者は、一方での野宿化、他方での法外援護、傷病・高齢理由による生活保護受給化が進んでいる。こうした状況変化に伴い、109軒の簡易宿泊所が密集する「寿ドヤ街」で居住する人々も変貌している。本報告では、1990年代を中心とした、横浜の日雇労働者の労働と社会保障の実態を明らかにするとともに、政策的な課題についても触れてみたい。
座長:木村 保茂(北海道大学)
南雲 和夫(法政大学)
「占領下沖縄の労働政策―1960年代の政策転換を中心に」
第二次世界大戦後、沖縄は日本からアメリカの直接占領下に置かれ、いわゆる施政権の全てをアメリカの軍政府に奪われた。日本本土では、GHQによる間接占領の下で労働改革がすすめられ、所謂労働基本権の成立に積極的な支援が行われた。これに対して、沖縄では米軍政府(1952年以降琉球列島米国民政府=USCAR、に変遷)によって強権的な労務管理が進められ、労働三法の成立はUSCARの弾圧・妨害を撥ね退けて沖縄住民自らの手によって勝ち取られなければならなかった。勿論、このような政策は1960年代以降修正された。しかし、その背景がどのような合衆国政府本国の方針転換の下で行われたかについては、従来の文献では解明が不十分であった。本報告では、1950年代から60年代におけるアメリカ政府、およびUSCARの占領政策の転換に伴う経済・労働政策の転換がどのように進められたかについて、解禁されたUSCARの公文書などを参考に報告を行う。なお、本報告の一部は、既に著書などで明らかにしているが、今回の報告では、発表時点では未使用・未解明であった公文書などを参考に報告を進める。
小関 隆志(明治大学)・村松 加代子(日本大学)・山本 篤民(横浜国立大学大学院研究生)
「現段階における建設現場労働の実態―首都圏建設産業調査に基づく分析」
建設産業はバブル崩壊後、公共工事を中心に失業者の受け皿となっていたが、98年以降は就業者数が減少に転じ、半失業者が急速に増加した。ゼネコンの経営破綻が続き、そのしわ寄せが末端の下請に押し付けられ、労働者は低賃金で厳しい労働条件を強いられている。報告者は首都圏建設産業調査で建設業就業者の現状を明らかにした。本報告では上記調査結果を分析し、下請構造の不安定化という視角から、先行研究に新たな知見を加える。
座長:赤塚 朋子(宇都宮大学)
宮下 さおり(一橋大学大学院生)
「戦後日本の労働者家族とマスキュリニティ―活版工の職業・生活史調査から」
これまで戦後日本の家族像、男性像に関しては、大企業労働者層を念頭において論じられており、「近代家族」的な家族のありようと「日本的労使関係」の親和性が指摘されているが、中小企業労働者像については実証的な研究が進められていない。そこで、本報告では、(元)活版工への聞き取り調査と史資料をもとに、戦後日本の労働者家族と男性像に関して、都市中小企業で働く熟練労働者層の実態から検討を加えたい。
小倉 祥子(日本女子大学大学院生)
「女性の平均勤続年数に作用する要因―都道府県間格差の統計分析」
女性の勤続年数は全国平均、都道府県別平均でみても長期化傾向にある。しかし、1999年の賃金センサスによると、最長の富山県(11.1年)と最短の北海道(7.1年)など、その平均にはかなりの差がある。そこで、このような都道府県ごとの平均勤続年数の差がどのような社会環境、就業環境、生活環境から生じているのかを検討する。1985年以降の4回の国勢調査を主な素材として、都道府県ごとの平均勤続年数を一つの指標(従属変数)としてとらえ、統計上設定可能な指標(独立変数)との相関関係をみていくと、労働市場(有効求人倍率、労働力率)や産業構造(第2次産業雇用者比率)、家族構成(共働き世帯、高齢者のいる世帯、男性の超過労働時間・家事労働時間)や社会システム(保育所数)など、いくつかの項目とある程度に有意に相関する。この分析に基づいて女性の勤続年数にかかわる先行研究でうちだされている論理の当否とその理由を検討する。