社会政策学会 本部より



学会誌のジャーナル化に関する論点整理メモ

2006年9月17日
代表幹事 武川 正吾

2006-2008年期幹事会におけるこれまでの経緯

第112回大会の懇親会挨拶(6.3.)で学会誌のジャーナル化の方針を表明
第1回幹事会(6.4.)で「学会誌ジャーナル化の基本方針と進め方については、代表幹事と編集委員長が協議して原案を作成し、次回以降の幹事会で検討すること」(第1回議事録)を決定.
第2回幹事会(8.5.)で,上記原案に基づいて議論が行われ,「新ジャーナルと春秋の大会の内容に大まかに対応した単行本との関係、刊行経費や入札のあり方、新ジャーナルへの切り替え時期、移行期の編集体制、掲載可能水準の論文数の見込み、新ジャーナルの編集体制、今後の進め方と手続き等について多面的に検討した結果、大略以下の諸点が確認された。

  1.  2008年度当初より新ジャーナルに移行し、現行学会誌は2007年春季大会に対応する第19号(2007年度中刊行)で終了する方向で検討を進める。
  2.  春秋の大会に対応する単行本は何らかの仕方で引き続き刊行する方向を目指す。
  3.  2006年12月まで幹事会および編集委員会でジャーナル化の原案策定を進め、2007年1月幹事会での決定を経て、学会内のパブリック・コメントに付し、3月に締め切った後、コメントもふまえて4月以降の幹事会でジャーナル化案を決定し、2007年春季大会時の総会に提案する。」(第2回議事録最終案)

 ・第2回幹事会において,編集委員会の意向を聞くようにとの意見がでたことを踏まえ,代表幹事が編集委員会に対して,ML上で,「これまでの学会誌改革のなかで浮かび上がってきた現行学会誌の問題点とその解決の方策についての編集委員会としての意見のとりまとめを,代表幹事が編 集委員長にお願いする.とりまとめの際には,前期編集委員会がまとめた改革案について十分に配慮していただく.最終的なとりまとめは10月の幹事会の前までにお願いしたいが,可能であれば,その中間報告を9月幹事会の前までにお知らせいただく」とのお願いをした(8.29.).
 ・この「お願い」に対して,編集委員長からML上で別紙のような「中間メモ」が寄せられた(9.13.).
 ・本日の議論は,以上を踏まえて行いたい.

この論点整理メモの性格

このメモは,前回幹事会で寄せられた疑問や意見をもとに,また,編集委員長からの「中間メモ」を踏まえて,ジャーナル化へ向けた幹事会での議論を深めるために,これまでの議論で出された論点や考慮すべき論点を,武川個人の責任でまとめたものである.このメモは,あくまで議論の効率化のために参考に供せられるものであって,何らかの決定事項を示すものではない.

1. ジャーナルの定義 今日の学術研究においては,ジャーナル(学術定期刊行物)が重要な役割を果たしている.
 1.1. ここでいうジャーナルとは,@論文,書評,研究動向等々の学術記事を収録し,Aピア・レビュー制度や,B投稿制度の下で,C独立した編集組織によって編集された,D定期刊行物のことを指す.
2. 社会政策学会の機関誌の沿革 これまで社会政策学会は,機関誌として,1908-1922年に『社会政策論叢』を,1953-1998年に『社会政策学会年報』(以下『年報』)を年報の形で刊行してきた.1979-1998年には『社会政策叢書』(以下『叢書』)を年1回刊行してきた.これらは,各時代の学会活動を記録するとともに,社会に対する情報発信の役割を果たしてきた.しかし,上記要件を充たすジャーナルではなかった.
3. ジャーナル化への歩み このため,1996年7月の24期2回幹事会で「年報を定期刊行機関誌に変更し年2回程度発行せよ」との問題提起がなされて以後,学会は,学会誌のジャーナル化を徐々に進めてきた.
 3.1. 1998年の『年報』第42集において,学会の歴史上初めて投稿論文を掲載.
 3.2. 1999年には,『年報』と『叢書』が統合されて,『社会政策学会誌』(以下『学会誌』)となり,年二回の刊行を開始した.但し,この時点では過去の経緯から,偶数号と奇数号で編集委員会と出版社が別々であった.また図書館や書店での扱いは単行書であった.
 3.3. 2002年には,春季号と秋季号の出版社を現在の法律文化社に一本化した.しかし合同編集委員会は設置されたものの,編集は偶数号と奇数号で別々に行われ,編集委員会は一本化にまでは至らなかった.
 3.4. 2003年には,投稿規定とレフェリー規定が整備された.
4. 残された課題 1996年以来の取り組みによって,この10年間に学会誌のジャーナル化が少しずつ進んできた.しかしジャーナル化の観点からみて,現在の学会誌には,内容と形式の点において,未解決の課題がある.
 4.1. 編集委員会の統一が行われていない.
 4.2. 編集権の独立が確立されていない.
 4.3. 共通論題やテーマ別分科会など大会記録の比重が圧倒的に大きく,ジャーナルが本来収録すべき記事の掲載が少ない.
 4.4. 定期刊行物の体裁をとっていない.
5. 今期幹事会が,歴代幹事会の方針に沿って学会誌のジャーナル化をさらに進めていくためには,上記の課題を解決する必要がある.
6. 現行の学会誌の役割 しかしながら現行の学会誌にもメリットがあることは認めなければならない.
 6.1. 現行学会誌は学会活動の公式記録としての役割を果たしている.
 6.2. 共通論題を学会誌のタイトルとして掲げることによって,学会がいま何を考えているかを会員の内外に示すことができる.
 6.3. 書店の店頭に単行書として配架されることによって,会員以外にも学会の存在感を示すことができる.
7. 現行の学会誌が担っている役割は重要である.しかし,これらの役割は現行の学会誌の形態を取らなければ果たせないというものでもない.
 7.1. 学会活動の公式記録については,すでにウェブ上にデータが蓄積されており,以前と異なり,とくに学会誌の形態で刊行する必然性は乏しくなりつつある.
 7.2. 学会誌の社会的な情報発信機能は重視すべきである.しかし現在の学会誌の形態がそのための最善の方法であるか否かについてはにわかに決めがたい.社会的情報発信の機能は,学会誌から分離して純化することができるかもしれない.
8. ジャーナル化と社会的情報発信機能の両立 このため8月5日幹事会に提出された「社会政策学会誌ジャーナル化実施案」では,@季刊学会誌(ジャーナル)の発行と,A大会に対応した単行書の刊行体制を整えることが提案された.このうち@については学会が編集を行い,学会の費用で刊行する(現行の学会誌の方式).Aについては学会が編集を行うが,刊行は出版社が行うというものであった.
9. この原案については賛否両論があった.
 9.1. Aの実現可能性について悲観的な意見も出たが,十分可能だとの意見も出た.
 9.2. ジャーナルとして刊行する4号のうちの2号を,特集号として,Aの役割を担わせるとの折衷案も出た.
 9.3. また,前回幹事会では出なかったが,単行書の定期的な刊行にこだわらずに,社会的なアピールを考えていくこともできる.例えば,現在,会則第4条では,「公開講演会の開催」や「内外の諸学会との連絡・提携」がうたわれているが,これらの事業を積極的に行っていくということも一案である.
 9.4. この点についての合意形成が必要である.
10. 編集委員会の組織 編集委員会の組織の具体的なありかたについては,現在,編集委員会に検討をお願いしている事項に関する「最終報告」が出てから決められるべきものと思われる.しかし,これまでの議論のなかでも,次の事項に関しては合意が得られていると思われる.
 10.1. 編集委員会の一元化
 10.2. 委員長と副委員長に過大な編集実務を強いている現状
11. 8月5日原案にあった査読体制の整備,編集委員会の機動性の確保,編集委員会に対する幹事会および一般会員のサポートなどを含めて,この点についての合意形成も必要である.
12. 財政的制約 現在の学会財政の状況では,小野塚メモが示すように,新規事業を立ち上げるのが容易ではない.またジャーナル化によって現在の還元金の制度が廃止となる可能性も大きい.このため既存事業の見直しも視野に入れながら,現行の会費収入の枠内でジャーナル化を進めることにならざるをえない.
13. 今後のスケジュール 年内に原案を作成するためには,10月の幹事会において,編集委員会の最終報告を踏まえて基本方針を最終決定し,ただちに実施案の作成に入る必要がある.そのためには,今回の幹事会において,めざすべき方向(とりわけジャーナルのイメージと編集体制)について大まかな合意を形成しておく必要があると思われる.



Wallpaper Design ©
壁紙工房