社会政策学会史料集





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社会政策学会

社会政策学会は欧米十九世の、一大問題にして我邦にも亦襲来すへき(否既に襲来しつゝある)所謂社会問題を研究するの目的を以て熱心家の組織せる一の学会なり
同会は明治二十九年四月の創立に係り爾後大抵毎月一回例会を開くを常とす其結果に至りては従来余り進んて之に公けにしたることなしと雖社会問題に関する種々の事項に就き会員各自に其意見を闘はし又は其研究の結果を報告する等最も真面目に又熱心に此問題の攻究に力を尽しつゝあり而して近時工場法制定の可否朝野に喧しきに際しては初めて公開講演を神田青年会館に開き高野、片山、加藤、金井の諸会員出席して交も交も工場法制定の可なるを説き労働者保護の軽視す可らさるを論じ大に盛会を極めたりと云ふ
同会の会員は当初僅かに八名なりしが爾来漸く増して今は殆と二十名に達せり蓋し強て会員の多きを求めず単に其範囲を斯道の熱心家に限るによる会員の数は如此く少なりと雖然も大学其他高等の学校の教授としては金井、戸水、山崎、織田の諸氏あり工業家として佐久間氏あり実際の労働運動に従事しつゝ人士としては片山高野(房)の二氏あり其他加藤、内田、矢作、清水、立、高野(岩)等の諸氏会員たり又会員桑田氏は明治二十九年以降欧洲に航し専ら社会問題に研究して頃ろ漸く帰朝され加ふるに田島、小野塚、建部、鈴木の諸氏は今や独英に留学して其専門を修むるの傍ら此問題に心を潜めつゝありと云ふ
吾人は以後此会の消息に付ては報道を怠たらさるへく会員の報告討議等に付ても亦其興味多きものを取て之に紹介するに務めん

〔2008年1月5日掲載〕


初出は『国家学会雑誌』第12巻第141号(明治31年11月)、掲載





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