大会プログラム


社会政策学会第100回大会報告要旨



テーマ別分科会(1)


5月27日(土)9.30〜11.30

              
 

1. 現代社会保障の問題と改革課題

座長 工藤恒夫(中央大学) 

趣旨

 戦後、国民の生存権を保障するための国家政策として展開されてきた日本の社会保障は、今日、その本来的な目的・機能の実現を困難にするような制度体系や財政上の諸問題をかかえるに至り、その打開が焦眉の課題となっている。今大会では、そのような日本社会保障の構造的問題の解明を通じて改革課題を提示するという視点から、以下の三報告を立て、討論を行なう。@所得保障(年金・公的扶助)、A医療保障、B社会福祉・介護サービスの保障。


所得保障

唐鎌 直義(大正大学) 
 高齢期の所得保障という観点から、老齢年金と生活保護に焦点を当てて、現行所得保障制度の問題点を明らかにする。最低生活を保障されない老齢年金受給者が女性を中心に大量に存在していること。それが高齢期における収入格差の著しい拡大をもたらしていること。生活保護制度が貧困の救済機能を充分に発揮していないこと、等々の事実を明らかにする。給付者(国)側からの改革に対して、受給者(国民)側からの改革を提起したい。


医療保障

西岡 幸泰(専修大学)
 急速なデモグラフィックな変化と国家財政危機の長期深刻化に加え、介護保険法施行と連動して、医療保障の「構造改革」が急務であると、声高に叫ばれている。確かに事態は極めて深刻であるが、そうした社会的・経済的環境条件の激変のもとで、医療保障制度の何が問われているのだろうか。ここを問い詰めることが重要だと思う。報告では、日本の医療保障制度の構造的“欠陥”の検討を通して、医療保障「構造改革」の諸課題を考えてみたい。



社会福祉・介護サービスの保障−−社会福祉構造改革、市場化と公的責任

芝田 英昭(立命館大学)
 3月3日、「社会事業法等8法の改正法」が閣議決定され、同日国会に提出されたことで、介護保険の施行(4月1日)と併せて、社会福祉における「措置制度から契約制度への転換」が全面的に図られることとなった。また、当時に社会福祉事業の営利化も打ち出されたことで、社会福祉における公的責任が曖昧にされようとしている。このような今日的問題を検討する中で、社会福祉における「公的責任性」について考えたい。






2. 今日の人材育成問題−−技能・訓練問題を中心に

座長 木村保茂(北海道大学)

趣旨

 わが国における人材育成システムの特徴の一つは、OJTを中心とする企業内教育の著しい突出にあり、それが日本的経営を支えるサブランスの一つとして位置付いてきた。しかし、1980年代から90年代にいたると、人材育成を取り巻く状況は著しく変化し、政財界から企業内教育の在り方も含めて、人材育成に関する様々な提案がされるにいたった。本分科会では、現場の技能・訓練問題に焦点を当てながら、日本的経営と不可分な関係にある人材育成の今日的特徴を探るが、同時にドイツの人材育成との対比の中で、わが国の人材育成の今後の可能性も考察したい。


合理化と教育訓練の階層性−−鉄鋼業と中小企業の事例から

上原慎一(鹿児島経済大学)
 今日、熾烈な要員削減の動きの中で、教育訓練は「自己責任」論を背景とした能力開発主義 に大きく傾斜している。本報告では、合理化・要員削減のシビアな展開をしている鉄鋼大手製鉄所とその影響下にある社外企業、及び体系的な能力開発からほど遠い小零細企業を対象に、教育訓練の階層性の今日的特徴とそれに対応したそれぞれの役割について考察したい。


テクニシャン養成の現段階−−自動車及び電機産業を中心に

永田萬享(福岡教育大学)
 今日、大規模なリストラが労働過程のME化をともないつつ展開している。こうした中でメンテナンス労働は、経験的熟練とME技術・知識を兼ね備えた新たなタイプの労働へと転換している。本報告では、テクニシャン養成の内実を明らかにするとともに、技術者や技能者との関わりの中で、それらがいかなる職場構造を作り上げているかを検討したい。

ドイツにおける職業教育の展開

久本憲夫(京都大学)
 職業教育を考える場合、少なくとも名前だけは有名なマイスター制度をはじめ、一つの典型としてドイツが挙げられてきた。またわが国では「職業資格」への関心は高まっている。本報告では、主としてブルーカラーの上位の職業教育システムである、マイスターとテヒニカー(テクニシャン)の養成についてみていくことにしたい。ドイツの最近の展開とその問題の抽出によって、わが国の職業教育システムへの示唆をえることを目的とする。





3. 提言:ジェンダー政策パッケージ−−均等待遇原則と個人単位


座長 大沢真理(東京大学)

趣旨

 雇用政策と社会保障という社会政策の中心的分野について、今日の日本社会が必要とする改革を包括的に検討する。「男女共同参画」、すなわちジェンダー平等の実現は、昨年成立した男女共同参画社会基本法にも、21世紀の日本社会を決定する最重要課題であると明記された。しかし、日本の中央省庁を特徴づけてきた縦割りの政策立案、実施システムが解消されないまま、21世紀の最初の4半期を左右する諸改革がつぎはぎ的に計画されているのが実情である。本分科会はパネルデイスカッション方式とし、まずパネリストから、ジェンダー平等の促進を中心として望ましい政策のあり方を簡潔に提言し、意見交換に最大限の時間を割く。    

発題者:雇用差別禁止:浅倉むつ子(東京都立大学)
    雇用保険:  小倉波子(東京市政調査会)  
    年金:    伊田広行(大阪経済大学)
    介護保障:  袖井孝子(お茶の水女子大学)
    公的扶助:  大沢真理(東京大学)






    

〈昼休み 11.30〜13.00 :幹事会・各種委員会〉





5月27日(土)13.00〜14.45  テーマ別分科会(2)

       

4. 社会環境の変化と生産システム革新

座長 上井喜彦(埼玉大学)
                  

 趣旨

 20世紀の大工場(労働集約的な組立産業)で誕生した生産システムで,現在もなお大きな影響力を保持しているもの,あるいは,今後の発展の可能性があるものとして,フォード生産システム,トヨタ生産システム(日本的生産システム),リフレクティブ生産システムをあげることができよう。これらの生産システムは,それぞれ一定の社会環境を前提として生成あるいは発展してきたものである。したがって,社会環境の変化により,なんらかの変容を受けざるをえない。ここでは,1990年代初頭に世界的に注目されるとともに,一定の修正を余儀なくされたトヨタ生産システム,トヨタ生産システムの影響を受けつつ普及しているセル生産システム(こうした生産システムの革新では,働き方の「自律性」や
「人に優しい工場」というコンセプトが重視されている),トヨタ生産システムのオールタナティヴとみなされているリフレクティブ生産システム,これらの検討をつうじて,生産システム革新の意義と限界,さらには今後の展開の可能性を探りたい。


社会環境の変化と企業・組織・生産革新

藤田栄史(名古屋市立大学)
 日本的生産システムは1990年代に大きな変貌を遂げた。トヨタ生産方式の「完結工程」の導入や電機産業におけるセル生産方式の導入などがその事例である。こうした変化は、情報通信技術を活用した開発体制の合理化や開発組織の再編、「社内分社化」をはじめとする企業組織の改編など、開発から生産・販売に至る体系的な再編成とリンクしており、企業を取り巻く経済社会環境の変化に促されたものでもある。本報告では、90年代における生産システムの変容を、社会環境・企業・組織など大きな制度の変化と結びつけて検討する。

ボルボ・ウデヴァラ方式の現在(auto nova工場)とその生産システム原理の可能性

野原光(広島大学) 
 ベルト・コンベアのみならず、流れ生産そのものを否定する生産システムの原理として、Reflective Production があり、これはVolvoのUddevalla工場の実践に基づいて一般化され、フォード工場を起点とする20世紀大量生産方式に対して労働の人間化と生産性を両立させるオールタナティブとして主張された。加えて地域環境と調和し、投資節約的な中規模工場モデルとしての意義を主張している。この仕組みには異論も多いが、少なくとも形態的にはこれと類似する、日本の製造業の動向、すなわち、ベルト・コンベアをやめた日本の二つの自動車工場(ホンダ・高根沢、ダイハツ・池田)、トヨタの完結工程、そして、電子機器等におけるセル生産方式の展開を見るならば、その意義と限界(リアリティ)の立ち入った吟味が必要であろう。


セル生産方式の展開−−現状と特徴

浅生卯一(弘前大学)
 1990年代において,セル生産方式の導入を基軸に生産革新をすすめた典型的な産業は,ワープロ・パソコン・カメラ・複写機などの電子機器組立産業である。そこでは,たとえば,従来,20名前後の作業者が1本のベルト・コンベアライン上で製品を組み立てていた生産方式に代わって,一人または数人の作業者で,全組立工程を担当するセル生産方式が導入された。本報告では,このセル生産方式の現状と特徴を,先行研究および最近実施した電子機器メーカーの実態調査をもとに,検討する。





5.家族と労働供給戦略

座長 山本 郁郎(金城学院大学)

趣旨

 工業化により需要された労働力の供給主体は、労働者個人ではなく、その労働者を包摂した家族であった。そのため、農村住民が家族経済維持の観点から採用した労働力供給戦略により工業化のあり方は強く規定されることになった。本分科会では、日本とインドネシアの経験を取り上げ、農村家族の労働力供給戦略が工業化の進行に与えた影響を検討し、労働史研究における家族の位置付け方を論議する。


戦前期日本の「小経営」と家族労働力−−在来産業の事例を中心として

谷本 雅之(東京大学)
 近代日本経済における労働力構成の一つの特色は、「業主」および「家族労働力」の比重の高さである。それは、多くの産業分野において、いわゆる「小経営」形態による経済活動が広く展開していたことの反映であった。本報告では、その典型的な事例である在来織物業の事例分析を中心に、これら「小経営」の存在が、家族労働力の配分「戦略」に根拠づけられたものであったこと、この世帯単位での労働供給行動によって、戦前期日本の経済発展が、「在来的経済発展」と称されるべき固有の発展パターンを内包していたことを示したい。




インドネシアにおける小営業と家族労働力-織物業地場産業の事例から

水野 広祐 (京都大学)
 今日のインドネシアの就業構造は、農村的小規模自営業主体的性格をもつ。この性格をもたらしているのは、小営業が主体の厚い農村内非農業部門の存在である。この農村内非農業部門の一部としての農村工業を地場産業として捉え、この産業をになう零細生産者や小商人の分業関係や事業戦略を家族労働供給戦略と関連づけて考察を試みることにより、地場産業発展の過程を織物業の事例研究にもとづいて明らかにしたい。






6. 社会保障の国際比較−−日韓比較

      コーディネータ− 埋橋孝文(大阪産業大学)
      コメンテータ− 李静淑(四国学院大学)

趣旨

近年,国際比較研究が著しく進展している。しかし、その大部分は欧米諸国と日本に関わるものであり、他のアジア諸国を視野に入れていない。本テーマ別分科会はこの間隙を少しでも埋めるために企画された。
 韓国の社会保障制度は日本と近似しているが、仔細に見ると差異がある。また、最近は独自の展開を示している点もある(医療保険の分野では日本に先立って改革を成し遂げた)。分科会ではそのあたりを国際比較研究の方法・知見をも用いながら明らかにし,その意味を考察する。


社会保障・社会福祉における日韓比較

崔成龍(同志社大学大学院文学研究科博士後期課程)
 日本は社会保障制度の導入・発展において西欧への‘キャッチアップ型’から、1970年代に‘日本型’へ、そして現在は21世紀へ向けた制度改革を行っている。韓国も最近、これまで日本をモデルとした制度の導入・発展から独自の道を模索しはじめている。本研究発表では両国の関連制度体系、家計調査による再分配効果分析、政府の政策介入の形態等を比較・分析してみることによって両国の特徴と類似性・違い・課題等を探ってみたい。


医療保険制度の日・韓比較

  張炳元(日本社会事業大学社会事業研究所客員研究員 韓国保健福祉部保険政策課長) 
 日・韓の医療保険制度は法制度の仕組みやプログラムにおいて類似しており、21世紀に向けての抜本的改革が進められているという共通点を有している。両国の医療保険制度について、N. Gillbert & H. Spechtの政策分析の枠組み(配分、給付、提供体制、財源調達)に基づいて比較分析を行い、類似点や相違点、その特質を明らかにする。ちなみに今日的課題として推進、あるいは検討が進められている医療保険の一元化、診療報酬改善等に関わる史的展開過程、政策の価値と原理、その狙い等を比較考察した上で、今後の課題と方向性を提示したい。










5月27日(土)15.00〜16.45  自由論題

              

第1会場 労使関係(1)

座長 浜岡政好(仏教大学)

1-1 アメリカ公民権法の人事管理へのインパクト

片岡 洋子(京都大学大学院生)
 アメリカで1964年に成立した公民権法第七篇は、雇用上の差別を禁止している。この法律に対応して、アメリカの企業は人事管理の方法をどのように変化させたか、その要因は何であったのかを、政治的、社会的、そして経済的要因から考察する。また、黒人差別撤廃の一方で白人からの逆差別という訴えがなぜ生まれたのかを、裁判における差別の立証責任の転嫁に注目して時代の流れをおって整理し、1991年改正にいたるまでの変化を分析する。


1-2  国家公務員の勤務評定制度 ―戦後初期における制度導入・形骸化過程の分析

     岡田真理子(東京大学大学院生)
本報告は、戦後初期における国家公務員の勤務評定制度に関して、制度導入・制定・実施過程の分析を通じて、制度の形骸化要因を明らかにする。勤務評定制度の形骸化要因を探ることにより、査定制度において、もっとも処理が不可避かつ困難といえる「人の評価」につながるような側面が、戦後日本の最も初期における人事査定制度でどのように扱われたのかを明らかにし、戦後日本の人事査定制度分析に関する基本的視座を提示したい。


1-3 戦時期日本における「勤労者」像の形成

    佐藤充泰(横浜国立大学大学院生)
本研究の目的は戦時期の日本において労働者が、受動的であれ能動的であれ、勤勉な「勤労者」になることの意味を、京浜工業地帯という地域に即して明らかにすることにある。すなわち、マクロな言説レベルでの表象的な「勤労」イデオロギーと、ミクロな工場レベルの労働現場でのその実践との温度差に着目し、いわば理念と現実との溝を埋める作業がいかにしてなされたのかという点を、経営者、労働者双方の側から論じていくことが本研究の課題となる。






第2会場 労使関係(2)

座長 中原弘二(九州国際大学)

2-1 EU社会政策と市場経済−−サンプル多国籍企業の欧州ワークス・カウンシルに対する評価について

中野 聡(豊橋創造大学)
 本報告では、欧州連合EUおよび欧州経済領域EEA域内多国籍企業および企業グループに従業員への経営情報等の開示を定めた欧州ワークス・カウンシル(EWC)等設置指令(96.9発効)に関する実証調査の結果を提示する。昨年度報告に準じた分析フレームに依拠つつ、調査に参加した17社の経営陣の制度に対する評価とその背景の考察、および結果の日系企業との比較が行われている。






2-2 「人に依存した生産形態」の展開と人材活用

白井邦彦(釧路公立大学)
 今日の機械産業、中でもとりわけ重要な位置を占める量産組立型産業の組立工程においては、変種変量生産の徹底、低価格低コスト化を求める競争戦略に対応してセル生産方式、自律完結工程といった「人に依存した生産形態」が展開されていること、しかしセル生産方式についてみれば、その職場では労働者のモラール確保メカニズムの行使という側面で制約があること、といった点について96/97年に実施した工場調査に基づき報告する。



2-3  労働者協同組合における管理と労働

塚本一郎(佐賀大学)
 非営利組織論などで知られるアヴナー・ベンナーは、労働者が企業を所有し、最終的に統制する労働者協同組合の優位性を、企業の所有者と労働者とが同一集団となることで、所有者と労働者との間の利害対立を内部化し、除去する点に見出している。しかし、「所有」と「労働」の対立の形式的除去が、「管理」と「労働」の対立の除去を意味するわけではない。本報告では、先行研究と報告者の事例研究などを踏まえ、労働者協同組合における管理と労働の対立の力学について考察したい。





第3会場 社会福祉・社会保障

座長 坂脇昭吉(鹿児島大学)

3-1  企業福祉をめぐる最近の研究動向

桜井善行(名古屋市立大学大学院生)
 「非賃金労働費用」として企業が提供する企業福祉は、従来我が国では労務管理論などの分野を中心に研究がなされてきた。だが現在企業福祉は日本的労使関係とともに大きな転換点にある。報告ではその企業福祉が、福利厚生から企業福祉へと「発展」し、総合社会政策や生涯総合福祉の影響を受け現在に至った前提での最近の研究動向に着目し、将来展望等を中心に代表的研究者の分析について整理し、社会政策研究の課題にも触れてみたい。


3-2  公的介護保険とホームヘルプ労働

佐藤卓利(立命館大学)
今年4月より実施される公的介護保険は、従来の措置制度にもとづく公的サービスとしてのホームヘルプ労働に大きな変容をもたらすと予想される。また地域住民によるボランタリーな活動にも、介護保険制度の下での指定居宅サービス事業者となるか否かの選択を迫ることになる。多様な展開を見せてきたホームヘルプ労働の中から、自治体委託の福祉サービス公社、医療生協をベースとした「たすけあいの会」等に所属するホームヘルパーによる実践報告をもとに、ホームヘルプ労働の内容を吟味し、また生活支援労働としてのホームヘルプ労働の視点から、公的介護保険について論じたい。


3-3 阪神・淡路大震災被災者の生活再建と社会保障制度との接点を考える
       −−西宮市内応急仮設住宅入居世帯の生活調査を素材として−−

金持伸子(日本福祉大学名誉教授)
 1995年1月17日早暁に、兵庫県南部を中心に襲った大地震で、報告者の居住する西宮市でも、死亡者は1,100人余、住宅被害だけでも全半壊が6万1,300世帯以上におよび、人口の4割近い住民が一瞬にして住まいを失った。報告は、以後5年間の追跡調査をもとに、現在の時点での生活再建の状況を、150世帯余について年齢別、家族構成別、住宅所有形態別に検討して、不意の天災で家を失った高齢者世帯および勤労者世帯の生活再建に求められる課題を明らかにしたい。






第4会場 ジェンダー

座長 三富紀敬(静岡大学)

4-1  自動車産業における女性参入の実態―現場の労働体験から―

首藤若菜(日本女子大学大学院生) 
 従来まったくの男性職場であった自動車産業の組立職場において、1992年以降女性労働者の参入がみられる。大手自動車産業A社にて現場労働とまったく同じ労働をおこなうことを通じての内面観察から、男女の労働実態を明らかにする。人的資本投資と技能形成の観点から、「男女混合職化」の意味を検討し、性別賃金格差の縮小の可能性を示す。同時に他産業での女性技能職場との比較から性別職域分離が形成されてきた背景について考察する。

4-2  高度成長期の総評労働組合運動と女性組織---家族賃金イデオロギーをめぐって

山田和代(筑波大学)
 本報告では、高度経済成長下の総評労働運動のなかでその女性組織に着目することによって、組織内部における各構成主体間の見解の相違について、賃金政策を中心に指摘したい。具体的には、総評賃金政策担当者の「世帯賃金」、総評婦人対策部の性別賃金格差是正要求、そして総評主婦の会が担った活動の変容について説明しながら、これらを家族賃金イデオロギーとの関わりで検討する。



4-3   人事制度の変化とジェンダー

大槻奈巳(上智大学大学院生)
 長期雇用、年功的処遇を軸とした日本的雇用システムでは、一つの企業に長く勤めないことが不利であり、就業を中断せざるをえないことが多い女性のキャリアを妨げる機能を持っていた。現在@長期雇用の見直しと流動的な労働力の導入、A年功的処遇の見直しと新たな報酬制度の導入と、日本的雇用システムが見直されているが、旅行業A社を事例に、実際に日本的雇用システムの変化がどのような影響を女性のキャリア展開に与えているかを検討する。





          

〈17.00〜17.45 総 会〉
          〈18.00〜20.00 懇親会〉






5月28日(日)9.30〜16.30

共通論題:自己選択と共同−−20世紀の労働と福祉


午前の部 9.30〜12.00

コーディネーター 佐口和郎(東京大学)
      座長 岩田正美(日本女子大学)

趣旨

 現在、「自己選択」・「自己決定」という理念の下に進行している労働・福祉の諸制度の改革は我々をどこに導くのであろうか、またこの理念の背景にある「市場原理主義」はどのように吟味されるべきなのだろうか。本共通論題ではこうした問いに次のように答えていきたい。まず主流派のみでなく制度派の議論も含めてその限界はどこかが検討され、その上で20世紀の雇用・労働、社会保障・福祉、家族・生活の諸分野での制度の生成・進化を、「自己選択と共同性」という観点から総括する試みがなされる。そして現代日本での諸改革に関連して検討されるべき論点が提示されることになる。


グローバリズムと社会的セイフティネット

金子勝(法政大学)
 2000年から2002年にかけて、金融ビッグバンと国際会計標準の導入が実施される。これらは雇用制度や年金制度などの社会的セイフティネットに深刻な動揺を与える。とりわけ重要なのは連結キャッシュフロー計算書と年金債務の開示義務である。これらの「グロバルスタンダード」の持つ危険な側面に対して、いかなる改革が求められているのか。それはいかなる視点に基づかなければならないのかを論じたい。



『雇用流動化』論の歴史的意味

佐口和郎(東京大学)
 逆説的な言い方をすれば、「雇用流動化」論が浮かび上がらせたのは「雇用は単線的には流動化しない」という事実かもしれない。このことを手がかりに、この問題を理論的・歴史的に再検討していく。また「自己選択と共同性」という観点からは、企業を基軸とした諸制度をどのように理解していくのかがポイントとなる。さらに現状の評価では、「私的な関係」によって支えられる日本の雇用保障の諸制度のあり方に言及することになる。


20世紀と福祉システム−−日本を中心に

玉井金五(大阪市立大学)
 金子のいう西欧福祉国家の「階級間・階層間の格差是正」と日本の「職種間・地域間の格差是正」について、とくに日本の20世紀を検証する。わが国はもともと企業や地域の機能や役割が強く、その特質を戦前から戦後に持ち込む形をとってきたが、高度経済成長やその後の低成長はそうした構造をどのような方向へ転換させようとしたのか、そしてどこに行き着いたのか。国際標準からみた日本的な福祉システムの20世紀像を探求する。



    

〈昼休み:12.00〜13.30   幹事会・各種委員会



午後の部 13.30〜16.30

20世紀の家族と自己変容−−選択と共同性の間−−

中川 清(慶應義塾大学)
 20世紀は、企業と国家の時代であるとともに、家族の時代でもあった。20世紀に特有の家族のあり方は、多くの人々が企業と国家に依存して生活することを可能にするとともに、その結果として今日では、人々の生き方を制約する共同性としても浮かび上がりつつある。労働と福祉のサブシステムとして家族を性格づけ、家族の生活対応の変化、すなわちサブシステムの生成と自己変容を、日本の経験にそくして振り返ってみたい。



総括討論









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