下田 健人
人事屋と茶髪・ピアス
仕事柄、企業の人事担当者の方とおつきあいすることが多くあります。おつきあいの濃淡はありますが、年間100人以上の方と名刺を交換するでしょうか。以前は話を伺いに行くということが多くありましたが、最近は、いろいろなプロジェクトで、一緒に仕事をする機会が多くなりました。
企業の人事担当者の方を、しばしば我々は愛情を込めて、「人事屋」と呼んでいます。「人事屋」の特徴を一言で示せと言われれば、ずばり「保守的」と答えます。人事部は、企業の部署の中でも最も経営に近い部署であるからだと思われます。しかし、人事部に配属されて保守的になったのか、それとも保守的な人が人事部に配属されるかは定かではありません。いずれにせよ、彼らとお付き合いしていると、進取の気性に富んでいるというよりは、むしろ旧態依然なものにしがみついているといった方が彼らを上手に表現していると思います。新しいアイデアに直面しても、それは是非私の次の代の担当者にお願いしましょう、ということになります。その意味で、老若男女、人事屋に違いはないようです。
ところで、大学の先生で自分のゼミをもっていて、ゼミの学生の就職を心配しない教員はいないでしょう。私のゼミは、まだ3年生だけですから、就職の心配はしていませんが、来年のことを思うと少し心配になります。というのは、ずばり「茶髪・ピアス」が多いからです。今風の流行ですから、我々大学世界では、茶髪・ピアスについて違和感はなくなってきました。私のゼミでも、茶髪・ピアスはもちろん、赤、黄色、紫など、さまざまな学生が参加しています。私自身、その方面についてはかなり寛容だと思いますが、それでもゼミの初日のことを思い出すと、背筋を寒いものが走っていきます。
ある時、人事屋連中と酒を飲みながら、茶髪・ピアスを採用しているかと尋ねてみました。おおよそ10人位で飲んでいたでしょうか。私がそのように発言した時に、全員の目が点になり、その場の空気が凍ったことを今でも覚えています。日本の最も大きなホテルで人事を担当している人は、私のところでは採用マニュアルがあって、そこには「茶髪・ピアスは採用してはいけない」と書いてあるとまでいわれました。
私も負けてはいません。貴社では、外国人は採用しないのですか、と質問すると、もちろん採用します。外国人は茶髪でも構わないのです、と回答されました。理不尽きわまりない、と思うでしょうが、それが人事屋の世界なのです。
以後、人事屋の連中と飲みに行く時には、必ず「茶髪・ピアス」を聞くことにしていますが、これまで唯一「茶髪・ピアスOK」、しかも昨年1人採用しました、といってくれたのは、ある大手ソフトウェアメーカーの人事担当者だけでした。
そして、次のようなごく当たり前の言葉を聞いて、何故かほっとした感じがしました。
「先生、問題は中味ですよ、中味...」
それでは、また。
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〔2002年3月23日掲載〕