桑原 靖夫
やりたいことがない若者達
深刻化する若年者失業あなたはどう考えますか
ふと目にした10月20日のNHK「クローズアップ現代」で「進学もせず就職もせず10代フリーター急増」という問題が取り上げられていました。高校を卒業する頃になっても、自分のやりたいことがみつからないという若者が増加しているという指摘です。最近では高卒で就職した人の半数近く(大卒は3分の1)が3年以内に辞めているという統計もあり、こうした実態が進行していることについては、労働分野を研究する者として、問題の深刻さは認識はしていました。しかし、映像でいくつかの例を見ると、改めて現代日本の抱えている病理 の深刻さに心寒い思いがしました。
例に挙げられた東京都内の普通高校の場合、3年生の後半になっても半数近くが進学、就職のいづれの道を選ぶわけではなく、そのまま卒業し、フリーターとしてアルバイトをしながら暮らしたりしている実態が示されていました。ひとりの若者の場合、昼間はパソコンゲームなどをして過ごし、夜間はコンビニでアルバイトをして暮らしている。夜勤のため、月13万円近くの賃金が得られ、自分に合っているからしばらくこのままの生活を続けるつもりという答えでした。この人の場合は、仕事についているから、まだましといえるかもしれません。別の若者は、専門学校に行きたいと思うけれども、また勉強するのは嫌だしという答えでした。仕事にもつかず、といって積極的に自分に合った仕事を探そうというわけでもない若者の姿をみると、日本という国の将来が半ば投影されるような思いすらしました。 10代にしてすでに人生を終わってしまったような感がある若者すらいます。
若年者失業という問題は、欧米諸国ではすでに1970年代頃から大きな社会問題でした。経営者側から見ると、企業側の必要とする熟練・技能を身につけていない若者は、雇用したくない。企業として採用して訓練したとしても、訓練費用はかかるし、途中で企業を辞められ たら訓練費用も取り戻せないという考えです。そのため、10代、20代前半の若者の失業は、平均の失業率の倍以上の高い水準に達しています。80年代まで、日本は先進国中でも最低の失業率を誇り、諸外国から羨望の目で見られていました。若年者失業は日本ではほと んど問題にされませんでした。失業者は圧倒的に中高年者に集中していました。
しかし、バブル崩壊後、状況は激変しました。学校を出ても仕事のない若者の数は急速に増加しています。その範囲は、中学卒、高校卒と次第に拡大し、いまや大学にまで及んでいます。かつては「金の卵」とまでいわれた中卒、高卒者でしたが、いまや大変な就職難です。地方の高校では就職希望者の3分の1の求人しかないという惨状までみられます。どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。経済学者の一部では、若者は自発的に失業しているのだし、自分に合った仕事探しの段階にあるだけで、さほど心配することはないとい う見解も聞かれます。しかし、私は事態は欧米の若年者失業よりも、はるかに憂うべき状態であると考えています。
番組の中で、「とらさんシリーズ」の監督で知られる山田洋次氏が、問題の根源は深いと述べていました。この鋭い時代への眼力を持つ監督をしても、この深刻な事態の根源、そして対応策は、容易には見出せないようでした。社会の深部でなにかが確実に変わっているよ うな気がします。
大銀行の合併、日産自動車の工場閉鎖、大量の人員整理などのニュースは、主として中高年者の失業への懸念をクローズアップしています。一家の支柱であることが多い中高年者の失業は、確かに重要な問題です。しかし、その陰で静かに進行しているこの変化には、欧米の若年者失業とは質的に異なるものを感じます。
これまでは若さは積極性や独立心の象徴でした。しかし、人生でやりたいことがないと平然と語る若者の姿を見て、この国が背負ってしまった大きな病理の影を感じるのは私だけでしょうか。山田氏は、かれらには責任はない。社会が作りだしたものだと述べていました。私も同感です。しかし、それだからといって、放置しておいて治癒する病いとは到底思えません。社会科学者のはしくれとして、さまざまな思いが脳裏をめぐります。
そこで聞きたい。あなた方同世代の若者としては、この問題をどう受け止めますか。ぜひ、考えていることを聞かせてください。
(1999年10月20日深夜記す)
〔2002年6月20日掲載〕