日本学術会議「ジェンダー問題の多角的検討」特別委員会の活動について
(伊藤セツ会員より)
社会政策学会会員の皆様
2000年11月1日付けで私は、日本学術会議から「ジェンダー問題の多角的検討」特別委員会の委員を委嘱されました。任期
は2003年7月21日まで、つまり日本学術会議の第18期の期間です。以来、第1回は
2000年11月2日、第2回は2001年1月19日に、第3回は2月16日に、第4回は3月22日に
と、今年度すでに4回の会議が開催されました。委員長は蓮見音彦氏(第一部の社会
学)、幹事は池内了氏(第4部の天文学)と原ひろ子氏(第一部の文化人類学)で、
以下それぞれの部門から15名の委員、計18名で構成されています。女性は原氏の他、
柏木恵子氏(第一部の発達心理学)、岩井宣子氏(第2部の犯罪学)、米澤富美子氏
(第4部:物理学)がおり、オブザーバーとして加藤万里子氏(第4部の天文学)が
います。
今回私は、第6部農学部門家政学研究連絡委員会から出ていることは前にも
書きました。他の男性は、第2部の法学、第三部の理論経済学と財政学(前にも書き
ましたが鶴田満彦氏と神野直彦氏です)、第5部の機械工学と造船学、第6部の水産
学、第7部の医学等さまざまですが、すべての領域に女性研究者を進出させ、すべて
の領域の研究にジェンダー視点を入れるということで、この委員会は毎回活発な討論
が展開されています。
なお、この委員会は、日本学術会議第17期の「女性科学者の環境の改善」特別委員
会を受け継ぐもので、今期の7つの特別委員会(他の6つは「価値の転換と新しいラ
イフスタイル」「ヒューマン・セキュリティの構築」「情報技術革新と経済・社会」
「循環型社会」「生命科学の全体像と生命倫理」「教育体系の再構築」)の一つで
す。
「ジェンダー問題の多角的検討」特別委員会設置の際の内容は次のように説明され
ています。
「ジェンダー問題は、階層やエスニシティその他の差別問題とともに、21世紀にお
ける全地球規模での課題であるといってよい。課題の具体的内容は、歴史的に見て19
世紀末以来は、政治領域から経済領域をへて家庭内役割分業へと展開してきたが、い
まや発展途上国社会の人口増加、先進工業社会の少子・高齢化、両者に関わるリプロ
ダクティブ・ヘルス/ライツ、女性に対する暴力、等々、人間生活のあらゆる領域へ
と拡大・深化している。その際、ジェンダー・セックス・セクシュアリティという三
つの概念の学術的解明は、問題の根底を明らかにする理論的作業として、いい換えれ
ば、遺伝情報と文化情報との相互関連の好事例として、すなわち生物科学的知見と人
文・社会科学的知見の、それぞれの党派化や絶対化や孤立化や一人歩きを克服するた
めの貴重な事例研究として、極めて重要な意義を担っている」
また、日本学術会議第18期活動計画中、「ジェンダー問題の多角的検討」特別委員
会の課題として次のように書かれています。
「地球規模の持続可能性を創造的に切り開くための前提として、『人間観』の修正
は、喫緊の課題である。ジェンダー(社会的文化的性別分類)問題は、民族・『人
種』区分や階層区分などの問題をも含めて人間を分類する概念そのものの再検討を促
している。本特委は、ジェンダー問題に焦点を当て、地球環境と生命誌の視野におい
て、人口、健康、暴力、政治、法、経済、産業、教育、家族、人間の尊厳、その他の
観点から、生物としてのヒトと社会的文化的存在としての人間との交叉に関し検討す
る」となっている。
この趣旨に基づいて、第2回委員会では、岩井委員が、「フェミニスト犯罪学−女
性の加害・被害の視点から−」と題して、神野直彦委員(第3部:財政学)が「ジェ
ンダーと三つの政府体系」と題して報告しました。また、ここで、具体的活動のため
のワーキング・グループ(男女5名ずつ10名)が発足し、池内了氏が長になりまし
た。第3回委員会では私が「ジェンダー課題解決のツールとしてのジェンダー統計」
と題して報告しました。また同じ日のワーキング・グループでは、2月中に女性研連
委員全員に(約140名)に、研究上使用する姓名に関してのアンケートを実施し、4
月の日本学術会議の総会時には会員全員(210名)に同じ調査を実施することとなり
その原案を作成しました。
第4回委員会では、「従来の性差別や役割分業に基づく硬直化した状況を打破し、
男女共同参画社会の確立を進める上で必要な方策について」及び「従来の学術研究に
ついてのジェンダー視点からの見直しについて」委員全員が自由討議を行ないまし
た。
また、ワーキング・グループでは、研究上の姓名ばかりでなく、学会開催時の保育
室の設置、科学研究費交付中に育児休業を取得する場合の諸問題、育児休業期間中に
おける専門職の代替教員の補填について、学会事務局における学会員の職員にたいす
るセクハラについて等を今後問題にしていくこととなりました。
日本学術会議の「ジェンダー特委」が扱う問題は、日本のジェンダー課題のごく一
部、少数のものの問題でしかないかもしれません。私などは女性労働問題を研究して
いるとそのことが感じられて斜めの態度をとりそうになります。しかし、自分が置か
れた場でのジェンダー課題の解決への努力が、他のジェンダー課題と関連して、全体
的な男女共同参画社会への大きなうねりとなっていくことを期待して、与えられた仕
事としてやっております。
一つ宣伝をさせてください。
2001年2月25日に、学術会議叢書3『男女共同参画社会 キーワードはジェン
ダー』(発行:財団法人日本学術協力財団)がでました。定価1800円+税です
が、JAICOWS会員の執筆者が間に入って1700円で扱っています。JAIC
OWS事務局(私のところ)にありますのでほしい方はご連絡ください。執筆者は、
吉川弘之、原ひろ子、伊藤セツ、内藤和美、加藤春恵子、池内了、安川悦子、名取は
にわ、東寿太郎、末松安晴、崎山亮三、鶴田満彦、黒川清、猿橋勝子、上野千鶴子、
尾本恵市です。
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伊藤 セツ Setsu ITO jo-2100@swu.ac.jp
Director of Institute of Women's Culture
Showa Women's University
1-7 Taishido Setagaya-Ku Tokyo
154-8533 Japan
Tel: 81-3-3411-5096 Fax: 81-3-3411-5347
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