「社会政策学会趣意書」
社会政策学会 近時我邦の実業は長足の進歩をなし国富の増進誠に著しきものあり、是れ余輩の大に悦ぶ所なり。然れども是れが為に貧富の懸隔梢々其度を高め、従て社会の調和次第に破れんとするの兆あり。殊に資本家と労働者との衝突の如きは已に其萠芽を見る。余輩思て此に至る毎に未だ曽て悚然たらずんばあらず。今にして之れが救済の策を講せざれば後日臍を噛むも其れ或は及ぶこと無けん。殷鑑遠からず、夫の欧洲にあり。於是乎余輩相集て本会を組織し此問題を研究せんと欲す。 余輩は放任主義に反対す。何となれば極端なる利己心の発動と制限なき自由競争とは貧富の懸隔を甚しくすればなり。余輩は又社会主義に反対す。何となれば現在の経済組織を破壊し、資本家の絶滅を図るは、国運の進歩に害あればなり。余輩の主義とする所は、現在の私有的経済組織を維持し、其範囲内に於て箇人の活動と国家の権力とに由って階級の軋轢を防ぎ、社会の調和を期するにあり。此主義に本き、内外の事例に徴し、学理に照らし、社会問題を講究するは実に是本会の目的なり。此に趣意書を草して江湖の諸君子に告ぐ。 〔2008年1月5日掲載〕
初出は『国家学会雑誌』第13巻第150号(明治32年8月) |
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