社会政策学会第98回大会報告要旨集(1)

テーマ別分科会

1999年5月29日(土曜)9時30分〜11時30分




テーマ別分科会1 社会保障部会―社会保障構造改革の現状と課題


設定の趣旨

座長 相澤 與一 (長野大学)

今日、「社会保障構造改革」「社会福祉基礎構造改革」のスローガン野本、社会保障体制のリストラクチャリングが推進されつつあります。その背景や意義、その実態、予想される影響などを研究する必要は当面の重大事です。報告者を二名にしぼり、質疑と討論もできるだけ行いたいと思います。
 報告1 田多英範会員「先送りされる社会保障構造改革」
    報告の趣旨は報告題の通りです。
 報告2 平野隆之会員「介護保険と地域社会」
    「地域介護様式の特性と介護保険制度による調整」をイメージし、具体的には「大都市・都市・農村の三つのレベルを取り上げ、これまで形成されてきた地域介護様式が公的介護保険制度によって、どのように変容を受けるかを、それぞれの事例地域を通して検証する。」新たな制度のなかで「よりよい地域介護様式を形成しようとすると、どのような選択が自治体や住民に有るのか、などを検討する。」


先送りされる社会保障構造改革

田多 英範 (流通経済大学)

1 膨張する社会保障費用
1980年代制度改革(財政対策、財政調整)
   医療費用の増大(年々老人医療費を中心に1兆円規模で拡大)
年金費用の膨張(年々1,2兆円規模で拡大)
   少子・高齢化対策の本格化

2 行き詰まる社会保障制度
バブル崩壊後の長期的経済停滞
医療保険財政の悪化
 保険料収入、相対的減少 老人保健制度への拠出金増加
 保険財政赤字化
  一制度の赤字から制度全体の赤字化へ
募る公的年金制度への不信感
費用の膨張と収入の伸び悩み
 漸進的年金制度改革(保険料引き上げ、年金額削減)
国民年金制度の空洞化
厚生年金基金の崩壊
維持困難な社会保険制度

3 迫られる社会保障構造改革
橋本内閣の6大構造改革
    バブル崩壊、大競争→負担面からの限界、高コスト構造の改革
社会保障構造改革
 医療保険制度改革案
     老人保健制度、出来高払い制の見直し
     高齢者医療制度の新設案、日本型参照価格制、点数表の改正案
 年金保険制度改革案
  99年財政再計算期、財政構造改革法
  給付水準の大幅引き下げ、支給開始年齢引き上げ論、国民年金制度全額国庫  負担論、厚生年金制度民営化論
 社会福祉基礎構造改革案
社会福祉法人制度、措置制度の見直し
4 先送りされる社会保障構造改革
深刻な長期不況下、政治的に、経済的に構造改革すすめられず


地域介護様式の形成と介護保険制度

平野 隆之 (日本福祉大学)

1.問題意識の紹介
 本報告は,地域福祉研究と社会政策研究との接点を模索することを1つのねらいとしている.地域福祉の研究分野では,「地域の福祉力」といった用語を用いつつ,住民参加の福祉活動の水準を表現しようとしてきた.ただし,地域比較に耐えうる指標化にまで至っていない.最近高齢者介護分野に限定する形で,福祉サービスの全国データをもとに,「地域介護力」の指標化による全国的な市町村比較が試みられた(高橋紘士監修『地域介護力』中央法規).介護保険制度導入を見据えた地域差の分析と是正策の提案として注目される.
 これらのフレームの延長線上に「地域介護様式」を設定し,介護保険制度環境のもとでの形成・変化を考察する.「地域介護様式」は,介護資源とかかる介護資源の運営ソフトの組み合わせからなる資源的規定と,「地域が選択する」介護様式,「地域が参加する」介護様式,「地域ニーズに対応する」介護様式,「地域のなかでの介護」の様式といった地域福祉の目的的な規定との二面をもつと仮説的に考えている. 
 介護保険制度環境には,保険給付範囲,保険料の設定,認定基準,指定基準,介護報酬,介護計画支援さらには広域対応などの諸手段が含まれ,それらによって「地域介護様式」の形成は影響を受けることになる.これまでの「地域介護様式」に対して,介護保険制度環境がそれをどう誘導し,結果としてどのような地域選択が進むかについて,これまでの諸調査結果を踏まえて若干の考察を行う.

2.4つの調査研究からの考察
 今回は,地域福祉研究の立場から「地域介護様式の形成と介護保険制度」に関連する調査研究を4つの項目に集約する形で報告する. 
1)地域の自発性と介護保険制度
 地域が参加する新たな介護様式の提案といった開拓的な実践に相当する痴呆高齢者への「小規模ケア」の全国調査結果(1998年実施)の分析から考察を加える.
2)介護資源の地域運営ソフトとしてのネットワーク会議と介護保険制度高齢者サービス調整会議等の数カ所の事例研究結果を通して,ケアマネジャー中心のカンファレンスへの移行が,地域介護様式の形成に与える影響を考察する.
3)介護様式の地域階層性と介護保険制度
 個別の介護世帯のニーズ把握とは異なって,「地域ニーズ」として現象する1つの例として,高保護率地域における介護保険ニーズ等を調査することによって,介護保険制度の運用の課題を考察する(生活保護世帯介護ニーズ調査:1997-8年).
4)社会介護の費用帰属実態と介護保険制度   
 介護報酬方式の導入は,社会介護の費用帰属実態を見えやすくする.保険料の設定に集約される地域介護様式の選択がどうすすむのか.社会介護の費用帰属実態に関する諸調査結果から考察する(岩田・平野・馬場『在宅介護の費用問題』中央法規,1996などから).






テーマ別分科会2 労働史部会―イギリス労働史研究のフロンティア



設定の趣旨

座長 市原 博(城西国際大学)

 労働史分科会は、実質的な立ち上げとなった1996年度の分科会で、経営史分野での近年の労働に関する研究成果を労働史研究が受け止める方法を検討し、そこで論点として検出された「企業内の階層性」(一般労働者・現場監督者・技術者の階層性を帯びた分業関係)の問題を、翌年の分科会で国際比較の観点から具体的に追究した。昨年の分科会では、日本労使関係史の研究成果に対する隣接研究領域からの問題提起を受け、その豊富化に向けた道筋を討議した。労働史研究の課題や方法を探求してきたこれまでの分科会の成果を踏まえ、本年の分科会では、労働史研究の原点に立ち返って、研究の最先端の現場で生み出されている地道な実証研究の成果を取り上げ、その共有化を図ることにした。
 対象をイギリス労働史に設定したのは次のような理由からである。イギリスの労働者階級に関する日本での研究は長い歴史と豊富な成果を有し、そこで形成されたイギリス労働者階級像が、日本労働史研究者による日本の労働者理解に多かれ少なかれ一定の影響を与えてきたことは大方の認めるところであろう。しかし、近年、従来のイギリス労働者の像を豊富化し、さらにはその新しい姿を描く研究が出てきている。そうした研究成果を共有し、労働史研究の様々な分野での研究の進展に生かして行くことには意義があろう。
とはいえ、短時間の分科会でそれほど包括的なテーマをこなせるわけではない。分科会では、世紀転換期に絞って、イギリス労働者の理解に興味深い論点を提起する報告を受け、討議したい。その際、重要な論点となるのが、均質で一体性をもったイギリス労働者階級という、暗黙のうちにも存在したように思われる観念である。労働貴族や職能別組合の研究においても階層や職業の区分の内部では存在したかに認識されたこうした観念が、イギリス労働者の実像を正しく理解する上で有効かどうかを考えたい。冒頭のテーマに「フロンティア」とつけたのは、こうした意味である。
 本分科会はイギリス労働史の専門部会ではない。イギリス労働史と縁のない者が座長を務めるのがそれを象徴している。日本や他国の労働史研究者の積極的な参加と発言をお願いしたい。




世紀転換期ウェールズにおけるペンリン争議

久木 尚志 (北九州大学)

エスニシティにかかわる諸問題を視野に入れた労働史研究は、近年になって数を増しつつある。しかしそれらが単純な還元論的理解に陥りがちな傾向にあることも、あながち否定できない。「労働者階級の一体性」を追求する代りにナショナル・アイデンティティの実体的把握を目指すだけでは、労働史研究の新たな方向性は見えてこないのではないだろうか。そこで本報告では、イングランド中心になされてきたブリテンの労働史研究のあり方を問い直すとともに、労働史研究の新たな可能性を見出すため、世紀転換期に北ウェールズで発生したいわゆるペンリン争議(Penrhyn Disputes)を取り上げ、この争議が提起した問題について検討を行なう。
ペンリン争議は、二度にわたってカナーヴォンシャ・ベセスダのペンリン・スレート鉱山で生じた。ペンリン鉱山は18世紀に開発が始まったスレート鉱山(quarry)であり、地方名望家ペンリン卿ダグラス・ペナント家の下で19世紀後半には世界最大の産出高をあげている。切り立った崖からスレートを切り出すなど危険の多い職場で働く労働者に要求される熟練の度合いは高く、彼らは自らを「連合王国でもっとも優秀な労働者」と自負していた。1874年以降、職種にとらわれない「北ウェールズ鉱山労働者組合(NWQU)」が形成され、経営側からも一定の自治を認められて、独自の世界が築き上げられた。
しかしダグラス・ペナント家の代替わり(1885年)を契機として、これまでのパターナリスティックな経営方針が転換されることになる。その背景には、国内外でスレート鉱山の開発が進んだことなどがあり、特に輸出競争力の低下に対処するための経営合理化が急務になったのである。その結果、労働過程全般に経営側の監視の目が入るようになり、労使関係は急速に悪化し始める。そして1896年に第一次ペンリン争議(〜1897年)が、1900年に第二次争議(〜1903年)が生じると、中央・地方政府や全国的労働者組織を巻き込み、国内に様々な反応を呼ぶのである。
他に例を見ないほど長期間にわたった争議は最終的に労働者側の敗北で終わるが、争議の過程で対立が彼らの世界の内側だけに限定されなくなるにつれ、外からのまなざしが自らのイデオロギー性をあらわにしつつ、スレート鉱山労働者の世界に対して向けられることにもなった。彼らを見るまなざしは自分たちの許容しうる範囲内でペンリン争議を理解し、それに沿って問題群を配列し直そうとした。その例が第一次争議における商務省介入に見て取れる。1896年に制定された調停法に基づく同省の試みが挫折したのは、最初から個別特殊な地域事情を捨象して争議に臨まなければならなかったからにほかならなかった。同じことはTUC(労働組合会議)やGFTU(労働組合総連合)といった全国的な労働組合組織によるペンリン争議への取り組み方にも当てはまった。これがいっそう複雑になったのは、「団結権」のような外来の組織理念の重視など、この種の戦術的限定に鉱山労働者自身も積極的に関与していたからであった。したがって、鉱山労働者が直面したもうひとつの問題は、スト参加者を支える理念そのものが異質な志向性を包含していた点であったと考えられるであろう。
ペンリン争議が提起した以上の問題を、最初に触れた労働史研究の新たな可能性を意識しつつ分析することが、本報告のねらいである。



19世紀末の労働者クラブと「シティズンシップ教育」

小関  隆(東京農工大学)


 1862年の Working Men's Club and Institute Union の結成を重大なきっかけとして、当初は職人・熟練労働者を中心に、19世紀末以降はさらに雑多な労働者を巻き込んで急速な広がりを見せた労働者クラブは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのイギリス社会を特徴づける associational culture を代表する任意団体である。初期のクラブのほとんどは、労働者に rational recreation の機会を提供し、結果的に労働者の elevation を実現しようという狙いに賛同する富裕なパトロンによって設立されたものであり、elevation のいわば最もわかりやすい手法である教育活動は、クラブが取り組むべききわめて重要な活動とされた。
 クラブの性格そのものは、19世紀後半を通じて大きく変化する。1870年代頃から、多くのクラブでは労働者メンバーがパトロンによる「上からの指導・援助」と絶縁して主導権を握り、クラブは労働者組織としての性格を強める。elevation の狙いは後景に退き、クラブは徐々に娯楽イヴェントに活動の重点を移していくが、それでも、クラブが何らかの教育的な役割を果たすべきことは世紀末にあっても時々に強調され、少なからぬクラブでは教育的な意図を込めた活動が取り組まれつづけた。
 クラブの教育活動は、具体的には、クラス、レクチャー、討論、コンペティション、「お出かけ」等、多様な形態で展開された。しかし、娯楽色の強い「お出かけ」を主要な例外として、これらの教育活動は総じて多くの労働者をひきつけることに失敗した。こうした事態を前に、クラブの教育的な性格を主張する者たちは、クラブにおける教育がより迂遠なやり方で達成されることを論じる必要があった。クラブ・メンバーシップ自体が教育的な意味を持つ、つまり、クラブで様々なタイプの人間と知り合い、討論し、クラブのいろいろなイヴェントを成功させるために協力し、自分の役割を果たしていくことを通じて、クラブメンは自制心や責任感、人前で話す能力や人を説得する能力を身につけていく、といったように。
 ここで浮上してくるキーワードが education for citizenship であった。19世紀末のイギリスでは、citizen ないし citizenship ということばへの注目が顕著に高まっていた。1867年の議会改革をきっかけとする政治的な民主化は、「労働者の citizen」という新しいカテゴリーを成立させ、彼らを「相応しい citizen」とするための教育の必要性が強調される一方、選挙権を獲得した労働者の側でも、せっかくの権利を活用できる能力を身につけることの必要性が強く認識されていた。そして、このような教育の場として期待されたのがクラブをはじめとする任意団体であり、こうした団体を足場とした「コミュニティへの奉仕」、すなわち公共圏へのコミットメントの重要性が力説された。クラブの教育活動を推進しようとする者たちは、クラブ・ライフこそ民主化された社会を担う citizen、自らの知識や思考に基づいて政治的権利を行使し、同時に応分の責務を果たしうる人間を涵養する、と論じた。19世紀末の労働者は、citizenship ということばを用いて、自分たちのaspirationを表現していたのである。







テーマ別分科会3 少子高齢部会―少子と高齢を結ぶもの



設定の趣旨

座長 高田一夫 (一橋大学)

 少子高齢部会は、昨年組織されたばかりの部会です。このテーマ別分科会が最初の集まりになります。そこで、今回は、この部会の「結成大会」の意味も含めて、分科会を開こうと思います。
 少子高齢化が現代社会の大きな特徴であることはいうまでもありません。また、少子化が人口高齢化の原因であるという因果関係もあります。
 しかし、「少子」と「高齢」では社会問題として、かなり意味が違うと思います。高齢者は非労働力であり、障害者でもあるので、当然何らかの社会的保護が必要です。年金や介護について、どの範囲でどの程度まで保護されるべきかは意見の分かれるところですけれども。
 ところが、少子化は社会問題であるかどうかについても、まだ議論の余地があると思います。確かに若年人口の減少は、高齢者の扶養という点で問題になる可能性はあります。しかし、安定人口に移行すれば、世代間の扶養はそれほど大きな問題とはなりません。GDPが停滞することは確実ですが、それは経済問題であり、日本経済の世界経済におけるシェアという、政治経済的問題なのであって、社会問題とは必ずしもいえません。
 むしろ、少子高齢化とは、社会の基盤である人口構造が変化し、そのため、社会構造にも変化がおこってくるという、社会変動の新しい契機としてとらえるべきではないでしょうか。われわれは、この社会変動を分析し、その意味を明らかにし、さらには社会プランを構想することを目指したいと思います。 この新しい部会が、そのような活動を推進していくひとつの力となることを念願しています。
 今回のテーマ別分科会では、会の運営も含め、今後のあり方について広く討議したいと思います。




少子高齢化時代の社会政策を検討する

塩田 咲子 (高崎経済大学)

  1.  労働政策−−規制緩和 99年4月〜 働き方はどう変わる



  2.  社会保障−−公的生活保障の構造はどう変化



  3.  問題提起:日本はどんな社会政策を選択できるのか









テーマ別分科会4 福祉国家の国際比較

設定の趣旨

座長  埋橋 孝文 (大阪産業大学)

 現在、福祉国家の「国際比較研究」は、従来のような「外国研究」あるいは「各国研究」から一応自立して独自の道を歩み始めようとしています。最近の傾向として、単に制度の比較にとどまらず、制度がもたらしたアウトプット、成果にまで比較分析の領域を広げていること、また、いわゆる類型論を仲介として各国の特徴についての認識が深められてきていることなども注目されます。
 しかし、それらは福祉国家施策のすべての領域をカバーしているというのには程遠く、また、これは福祉国家の定義とも関連することですが、方法論的にもまだまだ検討すべきことがらがたくさんあります。類型論にしても唯一絶対なものはありえず、いくつかの異なる視角からの複数の類型論があってよいことでしょう。
 今回の分科会では、3名の新進気鋭の研究者が、それぞれの視点と方法論をもって、「
福祉国家の国際比較」というchallengingな課題に取り組みます。
 分科会でのディスカッションでは、1)方法論的な検討、2)それぞれの領域から浮かび上がる日本型福祉国家の特徴、という2つの問題について討議を深め、今後の研究の一層の進展に寄与できればと考えています。



公的年金制度における普遍性と最低保障の規定要因

鎮目 真人 (北星学園大学)

I 研究目的
公的年金の支出水準の決定要因については、様々な仮説を土台にして豊富な先行研究がある。しかし、年金制度の仕組み、制度上の諸側面といったいわば質的な側面に対する決定要因を探る試みは、比較的少ない。本研究の目的は、産業化、利益集団、過去の政治構造、過去の年金制度の形態、権力資源等がそうした制度の質的な側面にどのような影響を及ぼしているのかについて探る事にある。また、その際、政治と制度の相互作用についても検討を加える。
II データ
 分析に用いるデータは、1981年から1993年までの期間を対象としており、4時点(1981、1985、1991、1993)に渡って、19のクロスセクションデータ(オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、日本、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ニュージーランド、スウェーデン、スイス、イギリス、アメリカ)がプーリングされたパネルデータである(オブザベーションの合計数は76)。
III 方法
年金の普遍性を測る指標(UNIVERSALIZM)あるいは最低保障の保障度合いを測る指標(MINIMUM)を従属変数とし、以下の変数を独立変数とした重回帰分析である(Pooled Time-Series Regression analysis)。独立変数:全人口に占める65歳以上の者の比率(%AGED)、65歳以上の者の全人口占める割合の平均増加率(AGED Growth)、人口の平均増加率(POP Growth)、国民一人当たり国内総生産(GDP)、国民一人当たり国内総生産の平均増加(GDP Growth)、失業率(%UNEMP)、失業率の平均増加率(UNEMP Growth)、国家(政治)形態(CONSTRCT)、19世紀後半の政治体制(AUTHLEG)、左派政党議席占有率(LEFTCAB)、中道政党とキリスト教系政党の議席占有率(CNCRCAB)、年金制度の経過年数(SPPE)、年金発足時の制度形態(TYPE)、レジュームタイプ(RTYPE) 。なお、パラメータの推定は、一般化最小2乗法(分散要素(Variance-Components)モデル)と最尤法(AR(1)モデル)によるものである。
IV 結果と考察
本研究で中心的に考察するのは年金制度類型と政治的要因の相互作用である。G.エスピン-アンデルセン(G. Esping-Andersen)の言う自由主義レジュームと社会民主主義レジュームに属する年金制度において、保守主義レジュームのそれよりも、政治的要因の影響力は相対的に小さいということが言えそうである。その理由は、前者では私的年金制度の浸透度が高いということにより、後者では逆に、公的年制度の浸透度が高いことにより制度を支える労働者(被保険者)の態度がそれぞれ異なる形で規定され、その結果、制度形成因子としての政治的要因が働く過程が異なることにあると考えられる。



日本型福祉国家におけるキャッシュ、ケアと女性の市民権−−家族政策のジェンダー議論を手がかりに−−

イト・ペング (北星学園大学)

 近年欧米の比較福祉国家研究のなかで「キャッシュ」(現金給付に直接基づいた社会保障)、「ケア」(パーソナルケアまたはケアサービス等のサービスを中心とした、主に家庭内で行われている、または制度化されている社会福祉供給)、そして「女性の市民権」に関する研究が広く注目されている。この分野の研究は1980年代の時点で最初に登場した、主にフェミニスト研究者の担当課題と考えられ、しかも限定された研究範囲のなかで議論されてきた「女性とケア」に関する研究分野を一歩超えた新しい研究分析である。
 このような視点から比較福祉国家研究が進まれている背景には、(1)多くのポスト産業化社会(post-industrial society)における社会的、統計的、そして家族形態等の変化、そしてこれらの変化が社会福祉の実際の現状と内容(特に現金給付からケアサービスへの転換)を大きく変容させていること、と(2)Esping-Andersen氏などを中心とした中流の比較福祉国家論のジェンダーに関する無視の2つの点が採り上げられる。
 本論ではフェミニスト研究者によるキャッシュ、ケアそして女性の市民権に関する最近の研究と議論を手がかりに日本の社会・家族政策における「キャッシュ」、「ケア」、そして「女性の市民権」の関係を考え、それを基盤に「日本型福祉国家」の特徴を検討する。




家族政策の国際比較研究の現状・課題・方法 −−日本と英国との比較を例に−−

所 道彦 (英国ヨーク大学大学院生)

福祉国家研究におけるウェルフェアミックス分析、ジェンダー視点の重要性の認識、実際の家族の変化・多様化とこれにともなった社会保障・福祉制度改革の進行などを背景に、「家族政策」に焦点をあてた比較研究への関心が高まりつつある。その一方で、「家族の定義」、「家族の機能」、「家族内関係」、「家族政策の目的」、「政策の種類」等において様々な解釈・パースペクティブが存在することや、関連する領域が際限なく広いことなどから、「家族政策」の「何を」、「どう比べるのか」について方向性が定まっているわけではない。これまでの比較研究の中心となってきたのはそのサブカテゴリーである「家族手当」、「保育サービス」などの制度比較あるいは歴史的変遷についての研究であった。現在、福祉国家の比較研究はインプットからアウトプット、アウトカムの比較へと力点が移りつつあり、家族政策においても実証的で分析的な比較研究が必要となっている。
本報告では、各国の多様化する家族間の水平的再分配の動態を基本とし、その上に政治的・社会的分析・考察を積み重ねていくことが「家族政策」の国際比較におけるアプローチのひとつであるとの立場から、日本と英国の家族政策の比較を試みる。まず家族に対する税・社会保障給付の実証的比較分析の手法としてのシュミレーション方式(モデル家族)の長所・限界について検討する。次に実際にこれを用いて両国での税・社会保障制度において家族形態の差違がどの程度影響するのかを分析・比較する。またどの家族形態に支援の力点が置かれているのか、「家族政策」における「優先度」についても触れ、これらの背景を探ることで両国の特徴を検証する。この中で英国労働党政権の家族政策の動向・インパクトについても合わせて言及する。なお、本報告では「未成年の子どもをもつ家族」を中心に分析を行なう。

1. 家族政策の国際比較研究の現状
2. 比較研究の手法
3. 家族政策の日英比較
税・社会保障給付と家族形態
家族政策におけるプライオリティ
4. 今後の課題






テーマ別分科会5 大卒女性のキャリアパターンと就業環境

設定の趣旨

座長 木下武男 (鹿児島経済大学)


 このテーマ別分科会は、森ます美(主査)、木下武男、遠藤公嗣の3名が実施した「大卒女性の就業継続に関する調査」の分析結果を報告する。もともとは自由論題として応募したが、諸般の事情により、テーマ別分科会として設定された。
 我々の報告は、いくつかの点で、社会政策学会の報告としては新しい試みを行っている。
 1つは、速報性である。現代的なテーマを取り扱うならば、その研究結果の発表はなるべく早いほうがよいであろう。「学会に行けば現代的テーマの最新の研究結果を知ることができる」という状況を、社会政策学会に作り出す一石にしたい。
 2つは、質問紙調査であることである。事例研究と質問紙調査は補完的だと思うが、最近の学会では質問紙調査の報告が少なすぎたように思う。
 3つは、テーマの最新性である。「大卒」と「女性」の2つのキーワードの集合をテーマとし、包括的な調査を行ったのは、学会で最初の研究と思われる。
 4つは、共同研究における成果の発表形式として連名制にし、集団的な成果であることを重視した。
さて、「大卒女性のキャリアパターンと就業環境」と題する我々の調査・研究の目的は、女性が自立した雇用労働者として働き続ける環境を作り出すことが社会的な課題となっているなかで、大卒女性の就業継続の促進要因と阻害要因を明らかにすることである。
 そのために調査対象者を、下表のようにA継続型、B転職型、C中断型、D退職型の4つのキャリアパターンに区分し、各パターンにおける「継続・転職・中断・退職」の諸契機と要因を探った。類似の調査・研究を進めている脇坂明氏をコメンテーターに迎え、フロアからの意見も合わせて活発な議論を期待している。 

   表 キャリアパターン別にみた大卒女性の特徴〔オンライン要旨集では省略〕




初職を退職した女性のキャリアパターン

遠藤公嗣(明治大学) 木下武男(鹿児島経済大学) 森ます美(昭和女子大学)

 4年制大学ないし短期大学を卒業して、職に就いたが、その初職を退職した経歴のある女性のキャリアパターンを考察する。そうした女性は、つぎの3つのキャリアパターンに分けられよう。最初に掲げた呼称は、この報告における呼称である。

 B転職型:初職を退職した後、他に転職して働き続けている
 C中断型:91日以上働くことを中断したことがあるが、現在、再就業している
 D退職型:現在、就業していない

 B転職型の女性は、継続就業しようとする意志の強さの点で、C中断型とD退職型の女性と異なる。すなわち、初職の就職時に考えていた働き方では、B転職型の女性は、結婚・出産にかかわらず長く働き続けていたいと考えていた女性であった。この点では、A継続型の女性を上回るとさえもいってよいかもしれない。しかし、B転職型の女性のなかには、その初職が必ずしも良好な職でなかったと思われる女性がいる。
 C中断型の女性は、その多数は、家庭における家事・育児を理由として中断した女性である。もっとも、中断期間を1年未満とする女性が約1/3存在するから、B転職型に近い女性もいくらかは含まれる。C中断型の女性の約半数は、給与水準や労働条件の低下など、中断による不利益を回答する。しかし、B転職型に近い女性も存在するためであろうか、中断による不利益を「特にない」と回答する女性が半数近くいる。
 D退職型の女性は、初職が最後の仕事である女性が約2/3存在する。また、初職の勤続年数の中央値は、B転職型とC中断型のそれよりより大きい。初職に比較的長く勤続して退職し無職になる女性が多いといってよい。無職である現状について、満足している女性と不満である女性はほぼ半数ずつであるが、どちらもそれほど強い意識ではない。
 3つのキャリアパターンの女性を通して、その回答にもっとも影響したと思われるのは、卒業した大学類型(短期大学、4年制女子大学、4年制共学大学)の違いであった。



「継続型」女性の就業とキャリアパターンの規定要因

森ます美(昭和女子大学) 木下武男(鹿児島経済大学) 遠藤公嗣(明治大学)

1.「A継続型」女性の就業と環境
 「A継続型」女性とは、4年制大学ないし短期大学を卒業後に勤めた初職に現在も続けて就業している「同一企業・継続就業」型女性の略称である。この調査・研究では、女性のキャリアパターンは、A継続型に前掲のB転職型、C中断型、D退職型を加えた4つに類型化される。
*A継続型女性は、他のキャリアパターンに比較して次のような特徴を持っている。
・B転職型と同じく7割強が4年制大学の卒業であるが、人文科学以外に社会科学、理工学、教育分野の出身者が多い。
・初職の勤め先では、公務公営や民間の教育・研究機関の比率が他より高く、職種は専門・技術職が多い。しかしこの傾向は、卒業年次が下るに従って変化している。民間企業のみでみると、1000人以上の大企業への就職者が7割以上と突出している。
・初職の就職時に、「結婚・出産にかかわらず長く働き続けたい」と考えていた者が4パターンのなかで最も多い。しかし同じA継続型女性でも就業意識は、出身大学(短期大学か4年制大学か)と卒業年次によって変化がみられる。
*A継続型女性の仕事と就業環境・同一企業で働き続けてきた主な理由は、「転職しても今の会社以上に賃金・労働条件がよくなるとは思えなかった」からであるが、「結婚していない、子どもがいないので、働き続けて来れた」側面も大きい。この理由には、未婚・既婚(子の有無)の別と卒業年次、大学類型でかなり違いがある。
・入社以来の「仕事の変化」では、A継続型女性の6〜7割以上が、勤続年数に応じて判断や企画力、責任、専門的知識・技能を要する仕事が増え、能力発揮の機会や仕事の範囲も広がったと答えている。反面、対外的な仕事や昇進・昇格につながる仕事の面では
 変化がみられない女性が多い。
・職場における同学歴男女の処遇についての平等感は、4つのキャリアパターンの中で、A継続型女性が最も高い。職場における平等処遇と仕事の変化が継続就業を促している面は看過できない。

2.キャリアパターンの規定要因
 A継続型、B転職型、C中断型、D退職型の分析から、大卒女性のキャリアパターンが4つの型に分化していく要因には、卒業した大学類型、初職の性格、就業意識、職場の平等処遇、仕事の変化、仕事と育児・家庭の両立条件等の就業環境など多様な要因が関連している。これらの要因を4つのパターンに即して明らかにしたい。



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