1998年度社会政策学会賞選考経過報告





選考経過

 第1回選考委員会(1999年3月15日開催)では、「社会政策学会会員業績一覧」を参照しながら、1) 昨年同様、相対的に若い研究者の作品に注目すること、2) 各選考委員が次回には各二、三点の作品を挙げて議論のテーブルにのせること、3) 学会幹事各位からも推薦をお願いすること、を決めた。その結果、第二回選考委員会(4月7日開催)では、計11点の作品が紹介されたが、その中から授賞候補作品として四点が選ばれ、そのすべてを次回の選考委員会までに全員が吟味してくることを決めた。
 第三回選考委員会(5月19日開催)では、はじめに「社会政策学会賞表彰規程」を参照しながら、「学術賞」「奨励賞」の性格について議論し、1) 「学術賞」は、その研究分野におけるマイル・ストーンとして、研究史上長く記念されるべき作品に授与すること、2) 「奨励賞」は、今日求められる新たなテーマに着実に挑戦したもので、その仕事をさらに発展させることによって学界の研究水準を高めうると期待される作品に授与すること、という点について合意した。そのうえで、四候補作品について忌憚のない討論を行った結果、次の結論に達した。

授賞作品

 学術賞  該当作品なし
 奨励賞  二木立 『保健・医療・福祉複合体―全国調査と将来予測』(医学書院)
       富田義典『ME革新と日本の労働システム』(批評社)

 二木氏の作品は、近年の行政によって強調されている「保健・医療・福祉の連繋と統合」が、実は、保健・医療・福祉サービスをワンセットで提供する「複合体」として展開していることに注目し、その全体像を精力的な悉皆調査によって明らかにしようとしたものである。この作品によって、私たちは、二一世紀のこの分野での供給システムを正確に予測するための基礎的なデータを提供されたことになる。二木氏自身が認めているように、主に施設面に焦点をあわせ、ソフト面についての調査が未完であるという限界があるにせよ、この作業の意義は大きい。今後、「複合体」の形成の論理、「複合体」にはらまれる「光と影」などについて、一層の理論的、実証的研究が進められることを期待し、全員一致で授賞作品とすることを決定した。
 富田氏の作品は、日本の製造業におけるME技術革新が職場における「労働システム」に如何なる影響を与えているか、という観点で、機械加工業、自動車部品工業、巨大自動車工場、IC工場、化学工場の職場の実態を主に丹念な事例調査法によって明らかにしようとしたものである。この分野での従来の研究で軽視されてきた諸側面、諸要因に注目しようとしているため、観察は複雑、多岐にわたり、かなり難解な作品であるが、技術的諸要因に立入りながら、生産と労働のシステムの実態に多面的な光をあてたこの仕事は、今後のこの分野での研究の進展に寄与するものと思われる。委員会としては、これらの仕事を日本資本主義の現段階のなかで如何に位置づけるか、という観点での理論的検討が深まることを期待し、全員一致で授賞作品とすることを決定した。

選外候補作品

 松渓憲雄『イギリスの医療保障』(光生館)
 久本憲夫『企業内労使関係と人材形成』(有斐閣)

 松渓氏の作品は、イギリスの医療保障制度の特徴とされるナショナル・ヘルス・サービスの歴史的変遷を簡潔にあとづけしようとした好著であり、とりわけナショナル・ヘルス・サービスの展開と私的診療の関係などについての考察は示唆にとむものと評価されたが、やや古い時点で執筆された論文がそのまま収録されていること、最近までにいたる歴史を総括するためには、松渓氏自身も認めているように、なお相当の作業が必要であることなどを考慮して、選外とすることにした。
 久本氏の作品は、平常時における企業内労使関係において、異動のフレキシビリティに代表される「柔軟性」が如何に確保されているか、その実態を明らかにしようとしたものである。「相互信頼的労使関係」が従業員の「社員化」のプロセスで成立していること、対経営での規制力が弱いとされている日本の企業別組合が、その社員化プロセスに一定の役割を果たしただけでなく、組合員の意見を集約し経営に反映させるうえで着実な活動をしていることなどを指摘し、「相互信頼的労使関係」が今日なお維持されていると主張する論争誘発的な魅力をもつ作品として注目されたが、概念規定、理論展開における若干の曖昧さ、実態調査の精度についての不安などが指摘されたため、選外とすることにした。
 以上が本審査委員会の選考の経過および結果であるが、最後に、終始この委員会を傍聴し、記録の作成、文献の調達などの労をとって下さった伊藤代表幹事に謝意を表したい。
    1999年5月24日
         1998年度社会政策学会賞選考委員会 委員長  戸 塚 秀 夫
                                  委 員  大 塚   忠
                                        坂 口 正 之
                                        西 岡 幸泰
                                        西成田  豊


学会ホームページ