社会政策学会第十五回大会記事
社会政策学会は大正十年十二月十七、八日の両日東京帝国大学に於て第十五回大会を開けり。予定の順序次の如くなれども事実に於ては若干の変更あり即ち講演順序の如きは都合により本論叢輯録の如く変じたり。
社会政策学会第十五回大会順序
第一日 十二月十七日(土曜)午後一時東京帝国大学講堂に於て開会
一、開会之辞
一、討議 賃銀制度並に純益分配制度
報告者 東京商科大学教授 福田徳三君
報告者 神田孝一君
会員討議
第二日 十二月十八日(日曜)正午より東京帝国大学講堂に於て開会
一、 講演
時代と韻律 神戸高等商業学校教授 丸谷喜市君
社会問題と経済学説 早稲田大学教授 出井盛之君
国家観上と一新傾向 慶應義塾大学教授 加田哲二君
累進税と平等犠牲説 東京帝国大学教授 土方成美君
社会主義と財政学 京都同志社大学教授 阿部賢一君
経済二元論 東京商科大学教授 山内正瞭君
一、 閉会之辞
一、 会員懇親会 十二月十八日午後六時より東京帝国大学に於て開催
一、 縦覧 十二月十九日(月曜)蒲田松竹キネマ撮影所
即ち第一日を以て討議問題報告及び会員討議に充てたること前例の如く、本大会より報告のみは公開することゝなしたれば会場には定刻既に聴衆堂に満つ。報告第一席福田博士は現時我国に於て蒐集困難なる実際の材料を努めて利用するの手段を講じ、賃銀形態調査の為め私に質問表を立案し多数の工場其他に問合せ返事に接せるもの九十四、之に加ふるに東京、大阪、神戸の三都市に於て学生其他の助力に依り調査せしもの百七十六、合せて二百七十通の材料に基き、我国に必要適切なる賃銀制度の何たるかを知るに至れる所以を明かにし、之を外国の学説実際と対比説明す。報告は午後一時半より四時二十分に至り約三時間に亘れり。第二席神田孝一君は大正二年以来東京専売局にありて、賃銀制度の実際に触れ来りし経験上より賃銀形態の動態的報告をなす。午後五時四十分報告は了る
午後七時より東京帝国大学山上御殿に於て高野博士司会の下に報告に基きて会員討議会を開く。先づ福田博士討議を希望する主要点を挙げ、神田君、塩沢博士、高野博士、北沢教授、河津博士、早川教授、中西君、丸谷教授諸氏の間に討議あり、九時散会す。
第二日は講演に充てられ、正午より同大学講堂に於て開かる。各講演の要旨を茲に掲ぐることは従来の例なれども、其の要なきを思ひて之を省略せり。本論叢載録の順序に従ひて予定の講演ありたる後最後に上田博士登壇、我邦に於て動もすれば看過せられんとする、国際労働条約案の運命に就て講演あり。
講演終了後同大学山上御殿に於て会員懇親会を開く。次回報告及討議問題に就ては種々の説あり、採決の結果小作問題に決す。席上国際労働条約案が朝野に不問の裡に葬られんとするに対し内外の輿論に訴ふべきことを論議せられ、会員有志の賛同を求め会員有志の名に於て意見書を発表すべきことに決す。乃ち上田貞次郎、河津暹両博士を挙げ、文案起草其他適宜の処置を委任せり。
第三日は会員有志約二十名、午前十時より、府下蒲田松竹キネマ撮影所を縦覧す。斯くして本会第十五回大会は盛会の裡に終了せり。
〔2006年1月2日掲載〕
《社会政策学会論叢》第15冊『賃銀制度並純益分配制度』(同文館、1922年12月刊)による。